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読書について [’23年以前の”新旧の価値観”]

正宗白鳥著:北遊記(年度不明)

便利な世の中になったものだ。
芭蕉が、旅に死するは天命なりなどと言って、
とぼとぼと辿った土地を、寝台で微睡むうちに通り越し、
夜、上野を立った私どもは、翌朝は青森に着いた。
物質文明の時代に生まれた有難さは感ぜられるが、
天地自然に親しみ、旅行を人生の修行とするには、
汽車も自動車もなかった時代の方が効果が多かったに
違いない。
読書も同じことだ。
ようやく手に入れた外国の書物を、辞書を頼りにポツポツ
読んだ時の方がしみじみと身に沁みて味われたので、
容易に得られる安価な翻訳書に
よってすらすら読むのではかえって感銘が
薄いのではと疑われる。

いつの時代も新しいものが登場すると、 常にこういう感慨になるのだろうか? 今ならさしずめ、「紙書籍」と「電子書籍」も同じくだろう。 というか、「リアル」と「デジタル」なのかもしれない。

タグ:正宗白鳥
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澁澤龍彦との日々:澁澤龍子著(2005年) [’23年以前の”新旧の価値観”]

結婚前のことですが、忘れもしないこんな事がありました。
ある日、銀座の画廊で展覧会を見る約束をしていましたが、
澁澤はいくら待っても現れません。怒り心頭に発したわたしは、
帰りに澁澤の家に寄りましたところ、
本人は「だって眠かったから寝ていたの」とケロっとしています。
「エッ!あなたの眠いのと龍子とどっちが大事なのよ!」
「だって、この宇宙はぼくを中心に回っているから、
これからもずっとそうだよ、そんなことで怒るのおかしいよ」と、
しゃあしゃあとしているではありませんか。 「もう許せない!」とそれまでのわたしでしたら、
これで一巻の終わりになるはずが、不思議にも怒りがすうっと消えて、
こういう人もいたのだと感心して、にこにこ笑っていたのです。

澁澤さんが質の良い仕事をされていたのは 奥様の支え、内助の功があったからということを 思わせつつ、お二人の関係を如実に収斂されている エピソードというか、文章で貫かれている書籍だった。 余談だけれど、これに似たような会話が、 仲井戸麗市著「一枚のレコードから」(1999年)にて チャボさんと山下達郎さんとの対談であったので一部抜粋。

 ■山下さん
 「僕、高校の時にガールフレンドがいて
 日曜日はデートするっつうと、レコード屋でね、
 5軒目(はしごしてて)で遂にキレてね  『私とレコードどっちが大事なの!』
 『もちろんレコードだよ』って(笑)」
 ■仲井戸さん
 「(中略)酷い人(笑)」
 ■山下さん
 「でもよくあるんだよ、そういう話は。
 心優しい男の人だったらね、そこで『それは比較の対象に
 なる問題じゃない』とか言うのかもしれないけれど、
 そういうこと訊くこと自体がナンセンスなんだよ」
 ■仲井戸さん
 「やな彼氏〜(笑)」

ふーっ。 なんか分かるような気もする自分がいるような。 社会生活を営む上で、とてもコンフリクトを経験してきているであろう エピソードでした。

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