澁澤龍彦との日々:澁澤龍子著(2005年) [’23年以前の”新旧の価値観”]
結婚前のことですが、忘れもしないこんな事がありました。
ある日、銀座の画廊で展覧会を見る約束をしていましたが、
澁澤はいくら待っても現れません。怒り心頭に発したわたしは、
帰りに澁澤の家に寄りましたところ、
本人は「だって眠かったから寝ていたの」とケロっとしています。
「エッ!あなたの眠いのと龍子とどっちが大事なのよ!」
「だって、この宇宙はぼくを中心に回っているから、
これからもずっとそうだよ、そんなことで怒るのおかしいよ」と、
しゃあしゃあとしているではありませんか。 「もう許せない!」とそれまでのわたしでしたら、
これで一巻の終わりになるはずが、不思議にも怒りがすうっと消えて、
こういう人もいたのだと感心して、にこにこ笑っていたのです。
澁澤さんが質の良い仕事をされていたのは 奥様の支え、内助の功があったからということを 思わせつつ、お二人の関係を如実に収斂されている エピソードというか、文章で貫かれている書籍だった。 余談だけれど、これに似たような会話が、 仲井戸麗市著「一枚のレコードから」(1999年)にて チャボさんと山下達郎さんとの対談であったので一部抜粋。
■山下さん
「僕、高校の時にガールフレンドがいて
日曜日はデートするっつうと、レコード屋でね、
5軒目(はしごしてて)で遂にキレてね 『私とレコードどっちが大事なの!』
『もちろんレコードだよ』って(笑)」
■仲井戸さん
「(中略)酷い人(笑)」
■山下さん
「でもよくあるんだよ、そういう話は。
心優しい男の人だったらね、そこで『それは比較の対象に
なる問題じゃない』とか言うのかもしれないけれど、
そういうこと訊くこと自体がナンセンスなんだよ」
■仲井戸さん
「やな彼氏〜(笑)」
ふーっ。 なんか分かるような気もする自分がいるような。 社会生活を営む上で、とてもコンフリクトを経験してきているであろう エピソードでした。
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