中村桂子先生の書から”人格への思慕”を感じる [新旧の価値観(仕事以上の仕事)]
- 作者: 中村桂子
- 出版社/メーカー: 朝日出版社
- 発売日: 2015/12/01
- メディア: 単行本
私は60年以上前にこの教室で勉強をし、その後大学で理学部へ進み、以来生きものの研究をしています。
高校、大学以来大勢の先生にたくさんのことを教えていただいたので、研究を続けることができたのです。
今日は私の原点になったこの教室で、後輩に私が学んだことや、それを基に自分で考えたことをお話しして、もしそれが若い人がこれからを考える役に立ったらうれしいと思っています。
実は、生きものの研究をずっとしていると、生きものたちがいろいろなことを語ってくれますので、その話を聞いてください。
ぞうさん
ぞうさん
おはなが ながいのね
そうよ
かあさんも ながいのよ
ぞうさん ぞうさん
だあれが すきなの
あのね
かあさんが すきなのよ
まど・みちお
この歌、皆さんが小さいころ、お母さんと一緒に歌いましたでしょう。
ぞうさんは長い鼻が特徴です。
君の鼻は長いねと言われ、そうだよ、お母さんも長いんだよと答える子どものぞう。
ここで語られているのは遺伝です。
ただ、まど・みちおさんは、じつはぞうさんはいじめられているのだと言います。
ほかと違うねと言われて。
でもぞうさんは、母さんだってそうなのよといじけません。
このかわいい歌の中にも生きものの持つさまざまな意味が込められています。
このような意味をこれから考えていきます。
まどさんは詩人ですが、科学を専門とする私と考え方が同じところがあるとおっしゃって、たくさんお手紙のやりとりをしました。
残念ながら、2014年に104歳で亡くなりましたが、最後の最後までお仕事をしていらして、そのお仕事をする一番の基本として次の言葉をあげています。
「世の中に『?』(クエスチョン・マーク)と『!』(エクスクラメーション・マーク)と両方があれば、ほかにはもう何もいらん」
疑問と感動、つまり、知と感動ですね。
「何もいらん」と言い切るのは難しいけれど、常に「?」と「!」を持ち続けることが本当に生きているということになるのは確かです。
「?」はふしぎがること、「!」は感動することです。
誰かに教えてもらったり、本に書いてあることを覚えたりすることは必要です。
でもそのような勉強だけが大事と思っているとすれば、それは違います。
本当に大切なのは知識ではありません。
自分でふしぎを見つけ出し、考え、新しいことを探し出す。
これが「知」です。
ところで、ふしぎを見つけ出せる場所はどこかというと自然です。
宇宙、地球、生きもの、人間など。
対象はたくさんあります。
その中で私は、生きものに注目しています。
人間も生きものの一つですから生きものを知ることは自分を知ることでもあります。
地球上には数千万種といわれる多様な生きものがいることが大事なのですが、一方であらゆる生物はDNA(ゲノム)を持つ細胞でできているという共通性があります。
そして、38億年前に生まれた祖先細胞から、すべての生物が進化してきたと考えられています。
もちろん人間もその仲間です。
生きものを知るには、この38億年間の歴史の中でさまざまな生きものが生まれてきた様子を知ることが大切なのです。
素朴な優しさが伝わる”まえがき”に続き
中村先生のステートメントのようなものを
以下に引かせていただいておりますが
「扇」というのは、中村先生の提唱される
「生命誌絵巻」にある38億年分の進化から
発生した生命たちが共存している”エリア”
のことを指されている。
ちなみに中村先生は、そのエリアから
人間は出て、ああだこうだということを
「外から目線」とおっしゃっている。
第二章「生きる」を考える
人間が人間を壊している
から抜粋
人間は扇の外にいると思っている今の社会は、金融市場原理、つまりお金の力で動いていますし、力のある国になるために科学技術を進めましょうという流れになっています。
もちろん豊かになり、便利になるという、ほかの生きものにはない人間らしい生き方は大事ですから、科学技術や金融市場原理を完全に否定するわけではありません。
けれども、人間は生きものだということを忘れて、経済や技術のことだけを考えている社会は問題です。
生命・自然を考えてほしい。
38億年も地球で続いてきた生きもののことを考えましょうということです。
私たちが大量にモノをつくったり、エネルギーを使ったりしていると、自然を壊してしまう。
これが地球環境問題になります。
人間も自然の中にいるのですから、それは私たちにとっても困ることです。
ところで、自然を壊す、環境問題というと、木が少なくなったとか川が汚れた、ごみが増えたという、外の自然だけに目がいきます。
でも、みんな自然なのです。
自然を壊すということは人間も壊すということです。
まず、人間の体が壊れるということ。
例えば、花粉症、アレルギーなど自然の変化とともに体への影響が出てくる例があります。
それから心も壊れていると思います。
あまりにも競争が激しくなる中で、心が壊れてしまう例が出ています。
競争はあってもいいのです。
しかし、社会の仕組みが競争を強く意識させるものになっているために、心が壊れる人が増えているのは問題です。
具体的にはあまりにも効率を求めすぎて時間をかけることができない。
それから人間関係を壊している。
生きものにとって、そして人間にとって、時間と関係はとても大事です。
時間をかけること、関係を大事にすること。
人間同士の関係はもちろん、ほかの生きものたちとの関係もとても大事です。
自然を壊すということはそういうものを壊します。
外の自然破壊には多くの人が気がついています。
だから、環境問題を考えましょうという声は大きくなっています。
でも自然を壊す行為は人間も壊すという感覚はあまり持たれていないのではないでしょうか。
それは怖いことです。
バランスを考えていかなければいけません。
そういうところからも人間は生きものだと考えることはとても大事だと思います。
中村先生は昔から貫徹されている。
と言っても頑固な物言いではなく
柔らかく、というところが
強みでもあり弱みなのかもしれないが
とても素敵だと思う気持ちは禁じ得ない。
井上民二先生の如くジャングルの上から
生きものの説明をされる時の中村先生の表情は
本当に嬉しそうで言葉もイキイキとされている。
自分で、考えて、しゃべっているのが
本当によくわかる。シビレます。
あとがき から抜粋
本書は、2014年の岡山県立岡山朝日高校でピアニストの中村紘子さんとご一緒に科学と音楽で知と感動を届けるという企画に参加したことをきっかけに、その時、生徒さん方へした話と今年の夏に母校であるお茶の水女子大学附属高等学校で行った3回の話の記録をまとめたものです。
生きものとしての人間というところから生き方を考えようとしてきた私の仕事が生かせるのではないかと思い、社会もその方向に少しづつ動いているような気がしていました。
ところが、2015年の夏には平和憲法を脅かすような安保法案が生まれ、人々の働き方についても一人一人の人間を大切にするというより、経済を優先する雇用法が制定されるなど、どう考えても「生きる」ことを大切にするという社会ではなくなっていく傾向が見えてきたのです。
社会で活躍するということは、これをそのまま受け入れて働くことではないという気持ちが強くなってきた、ちょうどそのようなときに話をする機会をいただきました。
普通の女の子…権力を求めるのではなく、日常の暮らしを大切にし、おいしいものを皆んなで仲良くいただくことを楽しみ、人々やさまざまな生きものとのやり取りに心を動かす。
それを基本にした上で、自分が大切と思うことについて考え、専門を決め仕事を進めていく姿を思い浮かべての「普通」です。
今、一番大事なことはこれではないか。
そんな気持ちを込めました。
そうすれば女性の力が社会を変えるのではないか。
もちろんこれは、母校の後輩に向けてだけのものではありません。
男子も含めて、高校生みんなに伝えたい気持ちです。
中村先生の言葉を受け取り社会人として
これからを生きることは正直生きづらい
構造になっていると思う。
どうしても新自由主義がベースで回っているから。
それでも違和感は感じながら少しでも自分の頭で
考え行動することが大事なのだと思わせる。
若い人のみならずすみません、おじさんにも
中村先生の言葉は響いております。
というか、中村先生の言説は
響くとか響かないとかではなく、生きものとして
あたりまえのことなのかもしれない。
響いたとするならば、中村先生の人格とか
声とかが今の自分には反応してしまっているのかも
などとまるで"ロックミュージシャン"に対する
思慕であるかの如く、中村先生と真逆な存在を
思い浮かべてしまった無意味なような
思考に囚われ、相変わらずアホの極みだわ自分
と思うけれど、中村先生は素敵だなあと思った
2015年だから”コロナ禍”は含まれずだけど
それ以前の中村先生のお考えの要諦がわかる
夜勤前のバスや夜勤明けに拝読した
素晴らしいシンプルな装丁の書だったのだけど
今日はそろそろ風呂とトイレ掃除しないとって思う
休日の土曜日、地震が心配な関東地方でございます。