『沈黙の春』から”炭素”を考察 [新旧の価値観(仕事以上の仕事)]
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2016/05/20
- メディア: Kindle版
アルベルト・シュヴァイツァーに捧ぐ
シュヴァイツァーの言葉ーー
未来を見る目を失い、現実に先んずるすべを忘れた人間。
そのゆきつく先は、自然の破壊だ。
湖水のスゲは枯れて、
鳥は歌わぬ。
キーツ
私は、人類にたいした希望を寄せていない。
人間は、かしこすぎるあまり、みずから禍(わざわ)いをまねく。
自然を相手にするときには、自然をねじふせて自分の言いなりにしようとする。
私たちみんなの住んでいるこの惑星にもう少し愛情をもち、疑心暗鬼や暴君の心を捨て去れば、人類も生きながらえる希望があるのに。
E.B.ホワイト
二 負担は耐えねばならぬ
から抜粋
害虫などたいしたことはない、昆虫駆除の必要などない、と言うつもりはない。
私がむしろ言いたいのは、コントロールは、現実から遊離してはならない、ということ。
そして、昆虫といっしょに私たちも滅んでしまうような、そんな愚かなことはやめようーーーこう私は言いたいのだ。
化学合成殺虫剤の使用は厳禁だ、などと言うつもりはない。
毒のある、生物学的に悪影響を及ぼす化学薬品を、だれそれかまわずやたらと使わせているのはよくない、と言いたいのだ。
どんな恐ろしいことになるのか、危険に目覚めている人の数は本当に少ない。
そしていまは専門分化の時代だ。
みんな自分の狭い専門の枠ばかり首をつっこんで、全体がどうなるのか気がつかない。
いやわざと考えようとしない人もいる。
またいまは産業の時代だ。
とにかく金をもうけることが、神聖な不文律になっている。
殺虫剤の被害が目に見えてあらわれて住民が騒ぎだしても、まやかしの鎮痛剤をのまされるのがオチである。
昆虫駆除の専門家が引き起こす禍いを押し付けられるのは、結局私たちみんななのだ。
私たち自身のことだという意識に目覚めて、みんなが主導権を握らなければならない。
いまのままでいいのか、この先へ進んでいっていいのか。
だが、正確な判断を下すには、事実を十分知らなければならない。
ジャン・ロスタンは言うーーー
《負担は耐えねばならぬとすれば、私たちには知る権利がある》。
三 死の霊薬
から抜粋
いろいろ数ある殺虫剤は、大きく二つに分けられる。
一つは、一般に《塩素炭化水素》と呼ばれるもので、DDTがその代表であり、もう一つのグループは、有機リン酸系の殺虫剤で、マラソン、パラチオンなど。
共通な点は、まえに書いたように、どれも炭素原子を骨格として構成されていること。
この炭素原始は、また生物界には欠くことのできない要素で、このため、この原子をもとにつくられているものは、《有機》と呼ばれる。
まず手始めに、殺虫剤の構造を調べ、生命の源である炭素原子と関係があるのに、なぜまた死を招くようなことになるのか、考えてみよう。
主要成分である炭素ーーこの原子は、どの原子とも鎖状、環状、そのほかいろいろな形で結合し、またほかの物質の原子ともつながる、ほとんど無限と言っていいほどの力を持っている。
このような自由自在な炭素の働きがあればこそ、生物はバクテリアからシロナガスクジラにいたるまで、信じられないくらい自由自在な形態の変化を見せている。
脂肪、炭水化物、酵素、ビタミンなどの分子と同じように、複雑な錯蛋白質(さくたんぱく)分子のもとは炭素原子である。
また炭素原子は、おびただしい数の無生物の土台で、炭素は生命のシンボルとはかぎらない。
有機化合物には、炭素と水素が簡単に連結したものである。
そのうちでもいちばん単純なものは、メタン(沼気(しょうき)ともいう)で、バクテリアによる水中有機物の分解によって、自然に発生する。
適当に空気と混ざると、炭坑内でおそろしい爆発を起こす。
この構造式はとても単純で、一つの炭素原子に四つの水素原子がついているーーー
さらにこの四つの水素のうち一つなり、また全部をひきはなして、ほかの元素におきかえることもできる。
たとえば一つ水素をとって、その代わり塩素をおくと、塩化メチルができるーーー
また水素を三つはずし、塩素にかえると、麻酔の時に使われるクロロフォルムができるーー
水素を全部とりさり塩素にかえると、四塩化炭素になる。
みんながなじみのドライクリーニングによく使われるのは、これであるーー
このように塩素置換したメタン分子にあたえたいろんな変化の図表で、塩化炭化水素がどんなものか一応説明されると思う。
だが、これだけでは、炭化水素の化学世界の複雑さ、有機化学者がさまざまな物質を数かぎりなく作り出していく魔法の正体はわからない。
たとえば、炭素原子に何が結合するか、というだけではなく、どの位置に結合するかが、大切である。
このような巧妙な操作によって、ものすごく有毒な化学薬品がいくつもつくり出されたのだった。
DDTの成立から、危険性、その被害報告の具体例、
またその他の毒性のある化学薬品の数々を
調べあげているだけではなく、
才能豊かな文章・構成力でしたためられた、
まごうかたなき名著と言える。
ベストセラーで日本でも読み継がれている
不朽の名作と言わざるを得ない。
悲しいのは、この時の警鐘が今もほとんど
有効なのではなかろうかと感ぜられるところで。
解説を書かれている筑波先生の文章もかなり
熱量を感じるものだった。
炭素原子の部分が自分は気になっていて、
中村桂子先生の言説で
SDGsの脱炭素は、実施されると困る、人間が
炭素化合物でできているのだから
ってのとどう絡むのか、詳しくはわからない、
これまた悲しい自分の頭なので、別日に追求したいと
思ったのでありますが、昨夜なぜかよく眠れず、
頭痛と花粉症に苦しんだ休日、それでも家の
網戸貼り替え一式を買ってこれたから良しとするかと
思った次第でございました。