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人間の未来AIの未来:山中伸弥・羽生善治著(2018年) [’23年以前の”新旧の価値観”]

iPS細胞で有名なノーベル賞ホルダーの山中伸弥さんと、将棋界の天才羽生善治さんの対談。


面白すぎて付箋貼りまくってしまい、全てが興味深かったのだけど、なんとなく選んだ二箇所の抜粋をご紹介。


「スマホは「外付けの知能」」から抜粋

山中■アメリカでは、「アポロ計画」「ヒトゲノム計画」に次ぐ巨大プロジェクトとして、前の大統領のオバマさんが2013年に「ブレイン・イニシアティブ」を打ち出しましたね。

脳の部位ごとの役割を解明して「脳マップ」を作成することで、脳のネットワークの全体像を解明する計画です。

 

羽生■アメリカに対抗してヨーロッパでも、巨大脳科学プロジェクト「ヒューマン・ブレイン・プロジェクト」を進めています。ローザンヌ連邦工科大学の主導で、EU(欧州連合)の資金をもとに、スーパーコンピューターを使って最終的にヒトの脳をシミュレーションすることを目標としています。

 

山中■そのあたりで、また何かブレイクスルーが出てくるでしょうね。まずアポロ計画で、コンピュータの技術が飛躍的に進んだでしょう。

そのコンピュータの発展があったからこそ、ゲノム計画でゲノム解読の技術が一気に進みました。

そこからさらにどう進化していくか楽しみではありますね。

 

羽生■個人的には、人間と機械の境界が、けっこう曖昧になってくるのかなと思っています。

というのは、例えばさまざまなハンディキャップを持った人が、機能を回復させるために人工的なものを取り込んで生活していくことになると、人体のうちどこまでが生身のもので、どれくらい人工的なものが入っているのかが、だんだん曖昧になってくる気がします。

 

山中■日本人は見た目を重視しますからね。

特に今、高齢者の方の介護が人手不足で、ロボットを導入する試みがなされていますね。

いいことだと思いますが、日本だとおそらく見た目も人間っぽいものが重宝されるでしょう。

でもアメリカだと、見た目はゴツゴツした機械的なものでも、それが実用的だったら広がるように思います。日本はそういう他の国にはない、見た目の要素も必要とされる気がします。

 

羽生■「ターミネーター」と「鉄腕アトム」の違いだと思います。(笑)

鉄腕アトムの功績は大きいですね。

知能のことに関していうと、今、かなり多くの人がスマホを持っています。

スマホを持っているということは、そのスマホが持つ知能を「外付けで持っている」ことにほかならない。

IQ(知能指数)で表現するのが適切かどうかわかりませんが、例えばIQ500とか1000の人工知能を携帯できる道具が技術的に現れたときに、体外に装着するか体内に入れ込むかは別にして、それを使わない人はほとんどいないと思います。

人間が四十六時中、それを身につけて物事を理解できたとしたら、IQ100の人は「IQ500とはこういうとだったのか!」と腑に落ちるわけです(笑)。

そういう意味でも、人間と機械の境目がすごい微妙になってくると思っています。

 

山中■今でもアイフォンなんて、10年くらい前の世界最速コンピュータに近いくらいの性能があるでしょう。

 

羽生■「アポロ計画」で使っていたコンピュータの性能よりも、アイフォンの方が高いはずです。

 

山中■それが、あんな小さな箱の中に入っていて、今みんなが使っていますよね。

学生たちは疑問があるとすぐ、アイフォンで調べるので、僕なんかいい加減なことを言ったら、即座に「先生、違います」(笑)。

それを使うのは、もう当然ですから。


「AI は抜群に優秀な部下の一人」から抜粋

山中■今後、僕たちのような研究者や医師たちの仕事がどう変わっていくのか。

たとえば、AIは「こういうことをすればどうか」と研究の方向性まで助言してくれるかもしれないですね。でも、それを実行するかしないかを決めるのは、やっぱり人間です。

 

羽生■AIは無意味なデータを大量に作るんです。

ずっと動いてくれているので、将棋の棋譜も何百万局と作ってくれます。

では、それが全部参考になるかと言うとそんなことはなく、その中のごく一部がすごく参考になるだけです。

だから、それに意味づけとか意義づけしていくのは、やっぱり人間なのかなという気がします。

 

山中■だから多分、AIって抜群に優秀な部下の一人なんですよ。

膨大な知識を持っていて、いつも冷静沈着。感情を交えずに「山中先生、これを選択した場合、このようになる可能性が13%高くなります」(笑)。

とても貴重な情報ではあるけれど、あくまでセカンドオピニオンというか、彼は部下の一人であって意思決定者ではない

それは医療の世界では決定的に重要なことなんです。

治療方針を最終的にどうするかは、患者さんと医師が決定するものですからね。

例えば、末期がんの患者さんに対して、AI君は「このがんは、いかなる治療をしても99.9%効果がありません。

だから治療は中止して、ターミナルケア(終末期医療)に移行しましょう」と論理的に言ってくるかもしれません。

でも、そういうことがわかった上で、ご本人や家族が「いや、それでもあきらめたくない。

最後まで闘いたい」と希望すれば、AI君がなんと言おうとも、希望をかなえてあげるべきでしょう。

その判断はやっぱり人間にしかできません。

そういう意味で、人間の意思は最後まで必要です。

AIが全部決めると、「医療経済的にこの患者の治療は必要ありません」とか「80歳の患者に何千万を要する治療は割に合いません」と判断しかねません。

「いやそれでも治療を続けたい」という希望は考慮すべきです。

 

羽生■そうだと思います。

 

山中■でも、もしかしたらAI君はその辺りの各種データをもとに「理論的に考えるとこうなりますが、この患者の性格と経済力を考慮に入れると、別の選択肢があり得ます」と指示するくらい賢くなってしまうかもしれないですけれど。

 

羽生■それにはおそらく、二つのアプローチがあると思います。

一つは何百万人分というビッグデータをもとに「確率的にはこういうふうな選択肢があります」と答えを出すやり方。

もう一つは、その人が生きてきた過去のデータを蓄積しておいて、それをもとに「彼はこういう答えを望んでいるはずだ」と答えを出すやり方です。

 

山中■その時は、判断の根拠となるような、その人の個人データを蓄積しておかなければいけませんね。ランダムに入ってくるデータは蓄積できると思いますが、個人個人のデータは個人情報の壁があってできるかどうかですね。

 

羽生■そうですね。ただ今はスマホを操作しているだけで、その人の情報全てフリーで「向こう側」に蓄積されています。

 

山中■確かに、頼みもしないのに、アマゾンから「あなたにおすすめの本」とか言ってきますから。時々カチンと来ますね。(笑)

でも相当賢い部下であるのは間違いない。


AIの発展は切望しつつ、それが、横暴で知性のない「上司」にならないことを祈りつつ。


なんか、そっちの方向に行きそうだよね。


しかも、資本家の良いように利用されそうで、ちと、いや、かなり怖い。


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