得手・不得手、そして影響を受けたもの [’23年以前の”新旧の価値観”]
■ぼくは本屋のおやじさん：早川義夫著（1982年版）
本屋の準備をしているころからの抜粋。
銀行からお金を借りる手続き、建築のこと、取引のこと、僕の頭の中はいっぱいであった。
損益分岐点、第一抵当権、全部、チンプンカンプンである。
計算された数字を見ていると頭が痛くなるほどであった。
僕は、自分にできそうにないことは、はじめからあきらめていたから、それらは、僕よりももっとわかっていないうちのにやってもらうことにした。
僕は、僕のできる範囲の事を一生懸命やるかわりに、僕のできないことは、特別得意なものはありませんという人がやるしかないのである。
昔自分は、Webのデザイン会社に入った時、
それ以前のグラフィックデザインの経験があったから
後輩を育成せざるを得ない立場になったのだけど、
自分は子供の頃から紙と鉛筆があれば機嫌の良い子で
その後デザインスクールにも行ったりしたから、
手書きが習慣化されていた。
だもんで、Webサイトのデザインも
手書きから発想を広げてた。
HTML（Webの基本言語）から考えると
発想が狭まるのだ。
（自分の場合はって事なんだけど）
ということを、その時は再三注意してたのだけど、
今思うとコンピュータからデザインに
入った人にとって それは難しかっただろう。
やった事がないし、
そういう発想がないのだから。
やってみたとしても、
自分の「絵心」のなさにガックリして
モチベも下がっていた事だろう。
今思うのは、それはそういうのが
得意な人と短時間でもMTGをし、
その後主体的に 「コンピュータ」で
自分の使い易いツールでアイデアをまとめる、
みたいな方向に 持っていければ
良かったのでは、なんて。
語彙力不足で説明下手だし、
今更そんなこと言っても何にもならず、
本当に不毛だな、これ。
話は戻って早川さん、苦手だからと言って、
もっと苦手な奥さんに任せきりって、
ひどいなあ。
10代のころ早川書店に行った事が
あるのですが ご夫婦仲良く
仕事されているのを拝見させて
いただいておりました。
奥様優しくて、本を買うとき、
薬屋さん近くにあります？
に対して 親切に教えていただいた。
そして、この本の「あとがき」が、
本当に印象深い。
「あとがき」から抜粋
カバーの絵を描いてくださった藤原マキさん、どうもありがとう。
お礼をしなければいけない方はたくさんいますが、
まずは父と母に、そして、店を守ってくれた静代に感謝します。
これを言われちゃあなあー。
ここであげられている、藤原マキさん、
お父様、お母様、そして奥様も今はいない。
時の流れを感じずにはいられない。
余談だけれど、奥様が亡くなってから、
早川さん、 歌手活動をやめ再度沈黙されている。
最近の書籍を拝読、小林秀雄さんの言葉を
引用され、自分も同じものを
聴いてて同じ想いだった。
■女ともだち（静代に捧ぐ）：早川義夫著（2020年）
小林秀雄が『小林秀雄講演第7巻』の中で正宗白鳥の「文学的自叙伝」を紹介している。
「お前さんはいったい誰の影響を受けたんだ、誰の感化を受けたんだと訊ねられると、たいがいの人は偉そうな人の名前をあげるもんだ。
本当は5年10年と同棲している自分の細君、あるいはこれに匹敵する女性から受けた感化というものが一番深刻ではあるまいか」
「仮に、同棲者に対して憎悪の念を持っていたとしてもだね、憎悪しているがためかえって多くの感化を受けるかもしれないではないか。同棲者が従順であるいは痴鈍であったとしても、そのために感化力が乏しいとは云えないかもしれない」
誰の影響を受けたのかと問われれば、僕は、車谷長吉、小林秀雄、吉本隆明の名を挙げたい。
けれど違うのだ。
一番影響を受けたのは、誰よりも何よりも、しい子なのだ。僕はいつも、しい子の喜怒哀楽に、ものの考え方に、生き方に、感動していたのである。
最後に、「ぼくは本屋のおやじさん」に戻り
2012年版の「まえがき」から抜粋で締めでございます。
僕が本屋を経験していたのは22年間。
やめて再び歌を歌い出してから、もう20年になる。
遠回りをしてしまったような気もするが、不器用ながらも、その時その時、精一杯やってきたつもりだから、悔いはない。
もしも、本屋を経験していなかったら、今の僕はない。
普通であることの素晴らしさ、感動は決して芸術の中だけにあるのではないということを学ぶことができたからだ。
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