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中村桂子先生の本の解説から”女性”を考察 [’23年以前の”新旧の価値観”]


あそぶ 〔12歳の生命誌〕 (中村桂子コレクション・いのち愛づる生命誌(全8巻)第5巻)

あそぶ 〔12歳の生命誌〕 (中村桂子コレクション・いのち愛づる生命誌(全8巻)第5巻)

  • 出版社/メーカー: 藤原書店
  • 発売日: 2019/01/26
  • メディア: 単行本


解説


生物学と女性


養老孟司 から抜粋


中村さんを見ていて、思い出すことがありました。

バーバラ・マクリントックという婆さんです。

はじめから婆さんではなかったと思うんですが、なにしろノーベル賞をもらった時に、80歳を超えていました。

その時に知った人ですから、私にとっては初めから婆さんでした。

うちの母親の知り合いの婆さんたちと同じ。

あの人たちにも若い時があったなんて、想像もしませんでしたね。

バーバラ・マクリントックについては、優れた伝記があります。

その中で、この婆さんは「自分がトウモロコシの染色体の中に立っている」と述べています。

その実感がわかりますか。

わかるわけがないでしょうね。

でも現実って、そういうものなんですね。

この人は一生をトウモロコシの遺伝学に費やしました。

だからトウモロコシの染色体がこの人にとっての「現実」なんですよ。

それでいつの間にか、トウモロコシの染色体の中に立っていることになる。


そんなこと、お金にこだわる人を見ていてもわかるでしょう。

いまはFP、ファイナンシャル・プランナーなんて職業があって、どうやって資産を上手に運用するか、そういう相談に乗っています。

そういう人にとっては、お金は現実そのものでしょうね。

そうでなけりゃ、数字や紙きれを相手に、一生を過ごそうとは思わないでしょ。

私なんか、虫を相手に一生を過ごしてますけどね。


だから中村さんを見ていて、バーバラ・マクリントックを思い出すわけです。

中村さんは「生命誌」と言います。

良い言葉だと思いますけど、あまり広がっていません。

すべての生きものは、巨大な時間のスケールを通じて、つながりあっている。

そのつながりを中村さんは強調します。

ぜひ子どもたちにそれを実感してもらいたい。

その気持ちが、この本を読んでいると、強く伝わってきます。

生命誌が子どもたちの現実になることを訴えていると感じます。


中村さんについて考えると、もう一人、思い出してしまう生物学者がいます。

リン・マーギュリスです。

この人も女性で、ミトコンドリア細胞内共生説で著名です。

どこで中村さんとつながるかというと、「つながる」ということでつながるわけです。

生きものは祖先を共有して、みんなつながっていますよ。

中村さんはそういいます。

リン・マーギュリスは、それどころか、違う生きものが細胞の中に住んじゃっているじゃないか、と言いました。

発表当時、これは評判が悪かったんだと思います。

論文は17回、レフェリーに拒否されたという話も有名です。


私が女性を強調するのは、敵(かな)わないなあと思うからです。

バーバラ・マクリントックのトウモロコシの染色体も、リン・マーギュリスのミトコンドリア共生説も、中村さんの生命誌も、その裏にあるのは、それぞれの女性たちの現実感です。

実際に子どもを持とうが持つまいが、やはり女性は自分の中に別なヒトを抱えて生きるようにできている。

そう思うしかありません。

まさに共生です。


うーん、すごいです。養老先生は相変わらず。


中村先生とのシンパシーすごく伝わってくるし。


思い浮かぶ二人の海外の女性ってのも興味深い。


ちなみに全く存じ上げませんでした。


今日本に普通に暮らしていたら、知らんよなあ。


知ってるものなのか?


中村さんには、いくつか、大切なことを教えてもらいました。

ご本人は忘れているかもしれませんが、私はよく覚えています。

生物には二つの情報系がある、というのがその一つです。

いまでは当然の常識かもしれませんが、きちんと意識化することができたのは、中村さんが一言、教えてくれたからです。

中村さんはゲノムに興味があり、私は脳に関心がありました。

どちらも情報系としては同じでしょ、ということを、そこではっきり意識したわけです。


もう一つ、既知のことを未知の言葉で説明するのが科学だ、ということです。

これでは多分通じないでしょうね。

この本がそうですが、中村さんは子どもたちにきちんと科学を教えようとします。

私もときどきやらされますが、生来の怠け者ですから、それが面倒くさい。

あとは自分で考えろ、とか言って、放り出します。

でも中村さんは丁寧に説明をしてくれます。

そうすると若いお母さんたちが「わかりやすく教えてやってください」などと、余計な注文を付けるわけです。

だから中村さんはいう。

「水なら、子どもはだれだって知っているでしょ、でもHもOも知らないんですよ」って。

水は湯気になり、雲にもなり、氷にもなります。

子どもはどれもよく知っています。

でもHやOは全然知らない。

でも科学の世界では、水はH2Oです。

つまり「よく知っているものを、知らない言葉で説明するのが科学なんですよ」というのが、中村さんの言い分でした。


でもお母さんたちは、暗黙の前提として、知っていることを前提にして、知らないことを説明してもらおうと思っている。

それが「やさしい」説明だと思っているわけです。

だから結局、新しいことを何も学ばない。

そういうことになりますよね。


私は20年以上前に、教師を辞めました。

いま私が教師をやっていたら、パワハラで告訴されるんじゃないでしょうかね

わけのわかんないことを押し付ける、って。

赤ん坊の時に、わけのわからない世界に放り出されたことなんか、皆もう忘れているわけです。

わけがわかんないから、面白い。

そういう時代が来ないかなあ。

生まれ直すしかありませんかね。


欧米、とくにアメリカの生物学は共生を嫌うみたいです。

リン・マーギュリスの扱われ方を見ればわかります。

根本的にはダーウィンの描いた系統樹に関係するんでしょうね。

これには枝分かれはありますが、枝どうしが融合することはない。

中村さんはお釈迦様についても、この本で一言触れています。

仏教的世界では、生物が「融合」しても、なんの不思議もないんですけどね。

中村さんの言う、生きものはすべてつながっているという結論に、私は文句なしに賛成します。


養老先生の解説しか引いておりませんが


この書自体ものすごく面白くて興味深い。


いのちの不思議や尊さ、女性への応援っぷりが


本当に素敵です。イノセントな人柄が滲む。


妻や娘に薦めたいのでございます。


相手にされないかもしれないけど、パパが言うと。


本の内容ですが子ども向けだからと思うが、


ルビが振ってありかつ、平易中の平易な


丁寧なお仕事に頭が下がります。


こんな中年に下げられても困るだろうけれど。


書評もいくつか書かれていて、


手塚治虫先生の講演本を取り上げておられるが


漫画自体は手塚作品のどれがってことではないが


どこをどう読めばいいかわからないから


苦手とおっしゃる。分かる所もなくはないが


自分の頭の構造とはまるっきり異なる


高次元な知性の持ち主であることを確認し


12歳の時にこの本に出会っていたら


もう少しましな仕事ができたのではないかと


詮ないことを考え一人でもこの轍を踏まないよう


ここでご紹介させて、って三木先生に対する


吉本隆明さんの真似すんなよ、と一人ツッコミを


してみても、朝5時起きでの仕事してきた


自分程度の頭ではすでに半分以上寝ているのだもの、


と言いたくなる冬の初めの夜でございます。


 


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