そして、人生はつづく:川本三郎著(2013年) [新旧の価値観(仕事以上の仕事)]
長年連れ添った奥様を亡くされて一人になっての心境からはじまる。
「まえがき」から抜粋
一人暮らし、それももうじき70歳になろうとする人間にとっても「秩序と平和を創造すること」がいかに大事であるか。
自己管理をきちんとし、静かに暮らすこと。
一人暮らしになって静かな一日を送ることの困難と、それゆえの幸福を知るようになった。
家事をし、仕事をし、散歩をし、一日の終わりに酒を飲みながら、昔の映画をビデオで見る。
無論、そんな平穏な一日が毎日あるわけではないが、それだからこそ「秩序と平和」が大事なものに思えてくる。
もうあまり大きな声でものを言いたくない。
「独り居」の中にささやかな喜びを見つけてゆきたい。3.11のあともそんな思いで書き続けた。
あれはフェリーニの映画だったか、「私は生きることより思い出すことのほうが好きだ。
結局は、同じことなんだけど」という意味の言葉があった。
日記を書くとは、まさにその日その日を思い出にしてゆくことなのだろう。
日記は本当にそういう局面あるだろうな、と思い自分も20年くらい続けていたけど、あえて一昨年やめてみた。
その時間、家族と話したり、眠る時間に費やしたほうが得策だと熟考してのことだった。
でも、川本さんの本を読み、またつけてみようかなと思ったり。
「家事一年生」から抜粋
一人暮らしでいちばん気をつけないといけないと悟ったのは忘れること。
電気のつけっぱなし、洗濯ものの取り込み忘れ、水道の水の出しっぱなし、日常生活には実に忘れることが多い。一度、ガスのつけっぱなしにしていて青くなった。
よくあるのが、電子レンジで温めたものを取り忘れること。
食事が終わってはじめて気がつく。
なにかおかずが一品少ないとは気づいていたのだが。
家事一年生には勉強しなければならないことがたくさんある。
今日は朝から天気がいい。久しぶりに布団を干した。
取り込みを忘れないようにしよう。(「暮しの手帖」2009年初夏号)
川本さんもつげ義春さんがお好きなようで、「ねじ式」よりも、温泉ものが良いと言うのに大きく同意させていただきたい。
シュールでメッセージ色あるものよりも、牧歌的なものの方が自分も昔から好きだった。
本も音楽も最近、素朴なものの方が、富に好みです。
そんな気持ちが川本三郎さんの本に向かわせたのかもしれないな。