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鈴木清順エッセイ・コレクション:四方田犬彦編(2010年) [’23年以前の”新旧の価値観”]

ワイドショーの司会者を一刀両断、戦争を実体験として持ってないことからか


暑さのせいなのか、仕事がないゆえ辛口なのか、辛口だから周りが引いて仕事がないのか


とにかく切れ味がやたらに怖い。


「敗戦の日(1991年)」から抜粋

美人の第一条件は、夏いかなる猛暑でも汗をかかないことだそうだ。

私は夏滅多に汗をかかない。

私が女であったらさぞ、一世を風靡する美人であったろうにと、男であることが悔やまれてならない。

そんな私も今年の暑さにはいささかバテ気味で、年々暑くなってゆく東京から逃げ出すにも田舎はなし、山にも海にも別荘はなし、仕事もないまま生温ったかくなった畳の上で、ごろんごろんいもむしのように転がって終日トロンとテレビを見ていたら、小癪千万にもあの司会者という奴にも夏休みがあるらしく、8月のうちコンビの誰かが一週間宛欠けていて、それを出番の奴があれこれ慣れ合いの噂話をするのは、如何にも聞き苦しい。

気に食わぬ司会者には、永久に休んでもらうことにしたことはないが、ああゆうたぐいの奴は、休んでいるうちにも人気失墜が気にかかり一週間が長くて長くて待ち切れず、必ず(なかには1週間がついつい2週間になったという奴がいてもいい筈だが、夏に雪の降ることはあっても、奴等にそんな殊勝な奴はいない)卑屈な笑いを浮かべて出てくるんだから、休みなどやらない方がいい

(中略)

面白い巨泉も敗戦特集の朝鮮問題となると、勉強をしてきたという割にはシドロモドロで、次から次へと付焼刃はボロボロと落ちこぼれてあわれさは一しお。

流石強心臓の巨泉も真面目(おかたい)番組は降りた方がよさそう。

その他の司会は私の批評の対象とならぬくらいの雑魚で、このくらいヒトの悪口を言っていると暑さも忘れて気持ちよく、事のついでにスポーツ・アナに及ぶと、甲子園の高校野球のアナは露木におとらぬ敬語馬鹿とお世辞馬鹿で、野球をやっている高校生だけが社会を背負う若者であるような錯覚を覚える。

 

諸君も知っているように選手になどなる奴は大方頭の悪い奴で、職業野球で暴力団とコネをつけた奴は大体高校生どまりの野球馬鹿。

二年生の選手が出るとアナウンサーは鬼の首でもとったように、二年生、二年生と持ち上げる。

馬鹿も休み休み家と言いたいところで、今の高校二年生はむかし中学五年生、気が利いた奴は旧制の高等学校か大学の予科に入っていて、あと二年もすれば兵隊検査で、酒とタバコと女を経験する年頃だ。

肉体的にはもう完全な大人で、野球をやっているから智脳の程度が子供で、その事を指して二年生、二年生というなら分かった話だが、アナウンサーもそこまでお利口ではない。

(中略)

さて15日になると各局は一斉に終戦(敗戦に非ず)特集を出した。

テレビは同時に二つ見ることのできぬ不便さがあって、あちこちとつまみ喰いしていると、小川宏のとこで硫黄島の記録映画が先ず出た。

アメリカ側がとった二時間のうち僅か30分もので、戦争はアメリカ軍上陸に三日間だけで、あとは日本人殺戮記録である。

戦争とは双方が互角の武器を持ち、あとは大将の智、兵の勇気で優劣を決する大勝負で、どちらか一方が初めから武器に劣勢なら、桶狭間や真珠湾のような奇襲戦法を用いるほかないが、これは堂々と言い兼ねる。

硫黄島も既に制空権がアメリカ側にあるから堂々の戦争とは申せぬが、水際作戦だけは戦争と言えるものを持ったようだ。

それは双方の戦死者の数を比べても分かることで、この水際作戦では日米共にほぼ同数の犠牲者を出している。

日本軍の弾丸が尽きてしまった四日目からはてんでお話にならず、味方一人で敵十人を殺すゲリラ作戦も、地形がゲリラに向かなければ絵に描いた餅で、敵は無傷でこちらは玉砕となる。

歯を食いしばり額に皺を寄せて殊更難しい顔をして画面を見ていた小川が、映画が終わると、硫黄島生き残りのもと軍人に、小川が用意したのか、テレビ局が用意したのか知らないが、戦争体験から、悲惨とか残酷とか、繰り返さないとか、平和だとかの答えを予想してあれこれ質問するのだが、二人の軍人は悲惨とか残酷とか平和など一向に知らん顔で、むしろ身命を賭して戦ったことに矜りすら感じられる態で仲々小川の質問にはまり込まず、汗タラタラの小川は何とか悲惨とか平和を言わそうとすればする程、二人の狐につままれたような素頓狂な顔がちぐはぐで、アメリカに投降した日本兵が、投降を勧告したもう一人の旧軍人があらわれると、小川は一生懸命に投降兵の勇気を称賛するのだが、当人は至って迷惑顔で、

”ハイ勇気が要りました”。

戦った軍人はむっつり脹れた様な顔をしていたが、これも小川のムリコシャラコの”勇気”云々に最後はシャッポを脱いだが、予め引き出す答えを作った小川の司会は不愉快極まりなく、今日の日本の平和がこれら戦争の犠牲者の上に立つ、というようなお念仏は、私たち戦争体験者から言わせれば、こんな日本のために死んだのなら犬死にと言いたいし、若者にすれば、こんな日本にして何が犠牲だと言いたいだろう。

 

小川は又この記録映画に比べれば格好いい戦争映画はみな嘘だ、という様な暴言を吐いたが、戦争の中の一人の人間を追求すれば、それは格好良くもなるので、これも戦争の一つの真実である。

硫黄島のような日本向け記録映画からは呵呵大笑いしているアメリカ人の顔がカットされる可能性も充分ある事を小川はよく考えてみる必要があり、犠牲はイケニエとも読むことができることを噛み締める必要がある。

 

要は小川が戦争について、深く考えることもなく、常識的な戦争罪悪感を鵜呑みにして司会したこで巨泉と変わるところはない。

(中略)

記録映画ほど私は信用できぬものはないと思っている。

カットの組み合わせ一つでそれが反戦映画にも好戦映画にもなり得る性質のものだからだ。

真実を伝えるには程遠いシロモノなのである。

”新聞人は出て行ってください。新聞は真実を伝えないから私は嫌いだ。テレビの人は前へ出てください。”

と言った佐藤栄作氏の憤怒の表情が今更のようになつかしいが、暇になった佐藤氏は今頃テレビも又真実を伝え得ないと、政治のカラクリを充分承知しているから、私よりももっと目くじらを立てていることだろう。

 

しかし考えてみれば、テレビは朝から晩まで娯楽と思えばいいんで、やってる奴が報道番組では尚更娯楽精神に徹すればこちらも腹を立てずに済むものを、真面目くさってやるからいけないんだ。

 

戦争は最大の娯楽と承知すべきで、みている側も面白く、参加する者は見ているだけでは味わえぬ恐怖、涙、笑い等など人間感情の最高を味わえるものだ。

中国人は強大であるし、南北朝戦は合同の機運にある。

押し寄せてくる敵を腕を拱いて見ていては祖国が敗れる。巨泉の朝鮮問題で、朝鮮の学者はいみじくも言っている。

朝鮮が悲惨な目に遭ったのは近代化(武器を持つこと)が日本より十年遅れたからだ、と。

むかしの十年は今の一年だろう。

平和念佛で果たして戦争は安直に回避できる者なのだろうか。

敵は嘗てキリストを先頭に突進してきたではないか。

三世の諸仏あることを知らず、狸奴白牯却って有るを知る(諸仏は知らない、猫・牛は有ることを知る)……平和を唱える神や仏は本当にいるのかどうか分からない、ベトナムで戦争をやっている事は分かりきった事実だ、という意味で、人間がいる限り戦争がなくなる訳はなく、日本人が永遠にその埒外にいるという保証は全然ないのである。

あのねずみ算式に増えるねずみも地球上に棲める頭数は定まっていて、増えずぎると自殺するねずみが出て来るという。

地球上に殖えすぎる人間は、戦争以外大量殺戮は出来ないのだから、戦争も又神の摂理という外ない様な気がする。

いい雨が降って来た。一雨毎に秋が近づくと定まり文句が新聞に載り出した。


こんな人を「歯に衣着せぬ」というのかな。戦争体験者がここまで言っていいのだろか。体験者だからこそ言えるのか。


その他、差別発言だらけのような。これよく出版できたな「ちくま文庫」で。と思うのは自分がひ弱な現代人だからかだろうか。主眼はそこではないんだけれど。


鈴木清順先生、NHKのドラマ「みちしるべ」というのを高校生の時に見た記憶がある。


なんで覚えているかというと、最後に泣いてしまったからで、


齢50過ぎの涙腺緩んでる今ならまだしも、10代の頃、ドラマで泣いた記憶ってこれしかないからだろう。


加藤治子さんを車椅子に乗せての夫婦のロードムービー。


河原を先生が、奥さんの車椅子を雑に扱い、怖がらせる様は、まるで子供のようで、無邪気で、なんか素敵だった。


風貌もかなり鈴木さんの評価に影響してる気がする。哲学者にしか自分は見えない。


 


余談だけれど、自分の母方の祖父、満洲鉄道で働いてて


中国に家族で行ってたのだけど、やっぱり8月15日のことを、


「記念日ってのはおかしいやな、負けたんだから」。


かれこれ45年くらい前。実際に戦地に行ってた人たちって、


あまり戦争を語りたがってなかった気がする。


思い出したくない過去なんだろうと想像に難くない。


それは老いとも関係してたのかもしれないけど。


それより、幼少期を戦時中過ごした父親(S14生)の方がよく語ってた。


「あれは大変だった…君らは知らんだろうけど…」


みたいに言ってて正直言って違和感があった。


本当に大変だったんだろうとはもちろん思いますけれど。


祖父たち(戦地で実戦していた世代)はもう語りたくもなかったのだろうなと最近感じる。


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