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痴呆老人の側に立って:小川猛著(1987年・昭和62年) [’23年以前の”新旧の価値観”]

昭和の最後の頃、「特別養護老人ホーム」での


出来事を経営者・現場視点で感じた著者が、


「めぐみ新聞」という福祉団体が発行していた


新聞に連載されていたものをまとめた書。


途中、アイスブレイク的に、


痴呆(2004年に「認知症」と改名)に


ついての随筆も挟まれる。ひとつ以下紹介。


これが非常に興味深い。


■知能はずっと後まで発達■

20歳を過ぎると、人間の脳細胞は毎日10万個以上死滅していくという。

単純に計算してみると、80歳になると20歳の時の63%しか残らないことになって、知能の発達曲線がおよそ16歳で頭打となり、40歳前後から下降を始めて55歳以降は急カーブという話を裏書きするみたいである。

実はこの曲線は、横断つまり同年齢の人の知能検査の平均値を出して各年齢をつなぎ合わせたもので、一人を長く追跡したものではない。

といって一人を追ってしまうと(縦”断”法)テスト慣れしたり、中途で欠けたりで正確な数値が出てこない。

そこで両法を合わせて、一人を5年間だけ追って全体をつなぎ合わせる(縦”列”法)だと、知能は55歳で最高になって、60歳まではほぼその水準を保ち以降ゆっくり下降する曲線が生まれたという。

知能は普通信じられているよりもずっと後まで上昇を保つわけだし、条件次第では痴呆状態でも学習の効果は期待できるものである。


みんながみんな、って訳ではないんでしょうけれどね。


でも希望が湧くなあ。


60歳まで知能の水準はキープってところが特に。


35年前のデータなので、今はどうなのか、


気になるけれど。


そして以下。「成人病」は「生活習慣病」に、


「後期老年層」は「後期高齢者」に置き換わる。


そのほかは何もわたしから、


今回は、余談とか、付け加えることないです。


■後書き■から抜粋

 (中略)

まだ老人問題の黎明期、古い話だが、まさに手をとらんばかりに教えてくださった、当時我が国の老人心理学の第一人者だった杉村春三先生が、ヨーロッパ・イギリスでは、終日動こうともしない、無為不関のアルツハイマー型痴呆の凄まじさを語り、やがて日本は、若年層の成人病による短命化と後期老年層の著しい増加の中で多発するアルツハイマー型を語られた。

その予言の日が、あまりにも早く到来してしまったとうのが偽らざる心境である。

(中略)

本書に紹介した現場の事例の一部は(中略)少数の専門家養成には役立っても、老人対策の主流とはなり得ない。

歴史が常にそうであるように、対策の主流は財政であり、財政に基づく制度であろう。

そして本書が取り上げた非貨幣的な部分は、スローガンのみで多くは消えてしまいがちである。

 

しかし、精神論を振りかざすつもりは毛頭ないが、人の本当の幸せは非貨幣的な部分に多くあるように思う。そのことを、わたしに関わった大勢の人生の先輩たちが、体験として教えてくださった。

 

気障な言い方を許していただくならば、私に、自らの命と引き換えに痴呆者の心の何かを教えてくださった。そこには科学が存在した。

わたしはその意味で本書をこれらの先輩に捧げたい。


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