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キャンティ物語:野地秩嘉著(2021年) [’23年以前の”新旧の価値観”]

川添浩史さんご夫婦が、六本木に


開店していたお店の話。


多くの有名人が通った本物の


イタリア料理を食べさせてくれる、


60年代には希少なお店、


ということは昔からなんとなく


知っていた。


文中にもある「幸雄」さんというのは


早世したレーサーの福沢幸雄さんのこと。


確か、かまやつさんが曲にしてた気がする。


「キャンティ」にはいつも見かける人々がいた。

作家の三島由紀夫、安部公房、丸太才一、作曲家の黛敏郎、團伊玖磨、画家の今井俊満、堂本尚郎、岡本太郎、建築家の村田豊、映画監督の黒澤明、谷口千吉、山本薩夫、演出家の伊藤道郎、千田是成、浅利慶太、草月流の勅使河原宏、プロデューサーの小谷正一、評論家の古波蔵保好、海藤日出男、安倍寧…。

(中略)

歌手のミッキー・カーチス、後にグループサウンズ、ザ・スパイダーズを結成する田辺昭知とかまやつひろし、堺正章、井上順、ザ・タイガースの加橋かつみ、ザ・テンプターズの萩原健一、レーサーの生沢徹、アパレル会社「アルファキュービック」を経営する柴田良三、作曲家の村井邦彦、俳優の岡田真澄、伊丹十三、女優の加賀まりこ、大原麗子、作詞家の安井かずみ…

 

そういった若者たちは、毎日「キャンティ」に立ち寄り、大人たちと背伸びした会話をすることで満足を覚えたり、若者だけの時はとりとめのない話をしながらスパゲッティを食べたりするのが日課のようになっていた。

 

小さな店はいつもの常連でいっぱいとなり、普通の客が入ってこられるような状態ではなかった。

「キャンティ」は1960年に開店してから幸雄が死ぬまでの10年間、レストランというよりは川添家の友人が集まるダイニングキッチンと呼んでもいい場所だった。

 

そして現在こそダイニングキッチンという匂いはうすらいだものの、それでも文化人、芸能人たちは顔を見せる。写真家の篠山紀信、作家の森瑤子、村上龍、林真理子、田中康夫、キャスターの久米宏、黒柳徹子、ミュージシャンの松任谷由実、細野晴臣、坂本龍一、俳優の勝新太郎、ビートたけし、奥田瑛二、宮沢りえ。

 

▼常連だったミッキー・カーチスさん談。

「偉い人もくる店だけど、一番楽しんでいるのは俺たちみたいなはみ出しものなんだ。

俺とか、ムッシュとか幸雄とか。行くところがなくて、世の中にあてはまらない連中が偶然に集まったのがここなんだ。ただ、メシを食いに来てたわけじゃないんだ。…

江戸時代の蔦屋十三郎の店がそうだ。

写楽やら、平賀源内やらが集まって、派手な絵は駄目だって言われても、性懲りも無く紅刷りの版画作って捕まったり、とか。みんなでわっさわっさやってたわけだ。でも自由な発想で小説だの詩だの絵だのを描けるのは、そんな自由な連中だけなんだ。

自由っていうのは、同じセンスの人間が集まることじゃない。芸術家村なんてナンセンスだよ。一つのテーブルの片隅に軍人と詩人とサラリーマンが座っている。

「キャンティ」だってそうだろ。皇族も作家も、不良もおかまも一緒にメシを食うんだからさ。話は全然かみ合わない。けれど一緒にいて、一応、相手の言い分も聞いてる。自由っていうのは、そんな立場の違うものが一緒にいられるってことなんじゃないのか」

▼「解説 見城徹」から一部抜粋

作者が感情を少しだけかいま見せるところがある。

「全てが豊かになった現在、「キャンティ」以上に本場のパスタやワインを供し、「キャンティ」以上に趣味の良いインテリアを持つ店はいくらでもある。

 

しかし、そうした店の中で、時代の空気を感じながら、未来を見つめる種々雑多な人間が集まっているところがどれくらいあるだろうか。有名人や金持ちより無名の若者に優しく接し、彼の肩をたたいて元気付けてやれる主人が、はたして何人いるのだろうか。

 

「キャンティ」とは一軒のイタリア料理店を指すのではなく、そんな人々が集まったあの時代の、あの空間だけを指すのだ。」


これで思い出すのが、イギリスの音楽家、


PILのジョン・ライドン。80年代に来日した時に


小林克也氏がインタビューで


共通することを言っていた。


■小林■

「君たちが起こしたパンクムーブメントというのは70年代で最大の現象だと言われているけれど中心にいた実感はある?」

■ジョン■

「(中略)最初はちっぽけなものだった。ピストルズがいた一時期の現象で後は関係ない。」


情報交換の社交場として、いわゆる「サロン」


の態で有効に機能していたと思わせるのは、


「刑事コロンボ」でも有名人が集う大きい


「美容室」があったけれど、それにあたるのかな。


あのドラマだと、マッサージしたり、飲食もしたりしてたな。


 


余談だけれど、バンドの「ドアーズ」の


評伝でも、ジム・モリソンが、あの髪型を


「アレキサンダー大王のように」と


するきっかけが「サロン」だった件が


あったのを読んだような気が。


ブルース・リーの評伝でも「サロン」


というか「美容室」で、情報交換とか


商談したって出てきたな。


さらに余談だけれど、30年前、


自分が最初に勤めたデザイン会社が


六本木にあり3年ほど通ったのだけど、


イタリア料理の「ニコラス」は


たまに昼食に行ってたけど


「キャンティ」は存在も知らなかった。


(そもそも飲んで帰れる時間に


仕事が終わった記憶がほぼない)


80年代後半、時代の最先端の空気感とか、


まだ少し残ってたような気もするけど、


当時のデザイン会社の一介の


新人デザイナーなぞ、


徹夜徹夜の連続で、それどころじゃなかった。


それと自分は今もだけど「芸能界」とか


「TV」とかにほとんど興味がないから、


そういうバイブレーションがあったとしても、


あまりキャッチできない


体質なんだろうなと思う。


でもここに、特定の「音楽」という


フレーズが入ってくると、自分の場合、


興味の持ち方が俄然と変わって


くるんだけれども。


そんな意味も含めて、読んでおいて


こんなことを申し上げるのは僭越ですが、


この本はあまり入り込めなかった。


ども、すみません。


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