SSブログ

流れといのち:エイドリアン・べジャン著:柴田裕之訳(2019年) [新旧の価値観(仕事以上の仕事)]


流れといのち――万物の進化を支配するコンストラクタル法則

流れといのち――万物の進化を支配するコンストラクタル法則

  • 出版社/メーカー: 紀伊國屋書店
  • 発売日: 2019/05/11
  • メディア: Kindle版

「序」から抜粋


生命と進化という現象を通して力の生成と散逸が

協働し、河川、風、動物、人間、機械など、

地球上の生物や無生物のあらゆる動きを促進する。

これは明瞭な現象で、物理の第一原理であり、

「コンストラクタル法則(constructal law)」

(生物・無生物を問わず、万物はより良く流れる

かたちに進化するという、著者が1996年に

発表した物理法則。原題のconstructalは著者

の造語。詳細は前作「流れとかたち」を参照)

という。

生命とは何かという問いを物理の観点に立って

提起すれば、ダーウィンから継承した生命の

記述的物語を導入することになる。

その物語からは物理学というテーマが抜け落ちている。

なぜ物理学を導入する必要があるかを理解するには、

ある領域で働き、拡がるものの例(動物、疫病、

河川流域、鉱物の採取、ニュースなど)を

いくつか考えてほしい。

これらの拡がり方はよく知られたS字カーブをたどる。

時の流れに沿って、最初はゆっくり、やがて速く、

そして最後にはまたゆっくり拡がる。既存のモデルは

みなこの現象を、競争、すなわち、生存と資源入手、

繁殖率向上、縄張り拡張、機会獲得などの

ための闘いとして説明する。


「第9章 時間の矢 知識の流れとかたち」から抜粋


知識は、それを持っている人から、持っていなくて

必要としている人へと、一方通行で自然に広まる

なぜ、自然に広まるのか。知識(デザイン変更)は

人間を動きやすくするからであり、また、

より大きな流れに向かっていく傾向は自然で

普遍的だからだ。

知識量の多い人と少ない人との境界は、時とともに前進する。

「高」が「低」に浸透していく。

「高」には知識のある人々がいて、「低」の

人々よりも多く動いている。

私たちはこの自然の傾向を他のいくつかの呼び名で知っている。

後ほど、ことわざや格言を挙げて紹介しよう。

良いアイデアには聞き覚えがあるものだ。

良い歌を耳にすると、以前にも聞いたことがあるような気がする。

私達はみな、「良い」ものの文化の出身地なのだ。

私たちは良いものは記憶にとどめ、そうでないものは忘れる。

そうでなければ、ここにこうして存在していないはずだ。

飢えや寒さ、苦しさで、とうの昔に死に絶えていただろう。

私たちがこのようななじみ深さを感じるのは、

アイデアの良さについて意見を表明しているようなものだ。

私はコンストラクタル法則について講義を

するたびに、この種の意見を耳にする。

この法則は、私たち全員に生まれながらにして備わっている。

以下のようなことを口にするとき、私たちはじつは

この法則を引き合いに出しているのだ。

 

・流れに乗れ。

 

・最短経路を見つけよ。

 

・目的は手段を正当化する。

 

・カルペ・ディエム(その日をつかめ)。

 

・何でもあり。

 

・郷に入っては郷に従え。

 

・すべての道はローマに通じる。

 

・長い物には巻かれろ。

 

・誰もが勝者を愛する。

 

・何かをやってもらいたければ、忙しい人に頼め。

 

・富める者はますます富む。

 

・賢者は考えを改める能力で知られる。

 

・二度目の機会は良いものだ。

 

・時代は変わった。

 

・時間は味方。

 

「何でもあり」と「郷に入っては郷に従え」は

矛盾するように聞こえるかもしれないが、法規とは何か、

なぜ法規は人を自由を保障するか、なぜ法規は自然に発生するかを、

両者はいっしょに示している。人がいるところには法がある。

この逆を述べたのが、ヘンリー・キッシンジャー(※)で、

彼も同じメッセージを送っている。

「自分がどこへ行くのかを知らなければ、どの道を進んでもどこにも着かない。」


 ※=ニクソンおよびフォード政権期の国家安全保障問題担当


   大統領補佐官、国務長官。1973年ノーベル平和賞受賞者。


 


何だか、すごい、高次レベルの内容で、自分の頭では


ほとんど内容についていけてないんだけれど、


かなり以前、元同僚のススメがあって、


ふと思い出し、昨日今日でざっくり読んでみた。


すでに、これまたざっくり読んだ、


利根川進さんと立花隆さんや、


養老先生の本を多少なりと読んでたので、


引っかかるキーワードが


ある程度の理解ではございますが、


これは前作といわれる「生命のかたち」を読まないと


納得できないような。


でも「ダーウィンに物申す」っていう


アティテュードの方の様で


ってことは「キリスト教の否定」の


「さらに否定」ってことで


大丈夫なのかな、著者の出生国ルーマニアとか


お住まいの地域での身の安全は、と


余計な心配をしてしまう。


それとキッシンジャーさんってそんな方だったのか、


と妙なところに納得してしまう次第で。


それにしても、この本、日本語の翻訳に、


ものすごい気合を感じる。


訳者あとがき(柴田裕之さん) から抜粋


前作「流れといのち」は私にとって衝撃的だった。

おおざっぱに言えば、こうなる。

かつて、人間を別格とみなして他の生き物と

切り離す世界観を、ダーウィンが進化論で刷新した。

前作と本書「流れといのち」の著者

エイドリアン・べジャンはそれをさらに推し進め

生物を別格とみなして無生物と切り離す世界観を、

すべてのかたちの進化を支配するという独創的な

コンストラクタル法則で崩し、森羅万象を物理によって

一つにまとめ上げた

これほどまでの統合的な見方に、私は魅了された。

(略)

このコンストラクタル法則に劣らず魅力的なのが、

著者の姿勢だ。

権威と言われてる人の言葉であろうが、学界の定説であろうが

鵜呑みにせず、疑問に感じた事柄を放置しないで出発点とし、

先入観にとらわれずに広い視野から考察や検討を重ね

特殊ではなく包括的な代替の説を提示して、それが斬新過ぎて

簡単には受け容れてもらえなかった批判を招いたりしても

動じないで、証拠や裏づけを積み上げていくという著者の姿勢は

物理の世界に限らず、どんな分野でも範とすることができる。

(略)

読者のみなさまにも、コンストラクタル法則という

斬新なアイデアに触れ、この単純ですっきりした法則に

よってじつにさまざまな事象の説明や予測が

つく爽快感を味わい、著者の姿勢や世界観に接して

明るい気持ちになっていただければ幸いだ。


余談なんだけど、翻訳って大事だよな。


原典の熱量にさらに熱量を感じるから。


三島由紀夫さんが、ドナルド・キーンさんと


懇意にされていたのは、


こういうことかと連想させる、翻訳っぷりだった。


nice!(22) 
共通テーマ: