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①環境を知るとはどういうことか・流域思考のすすめ:養老孟司・岸由二著(2009年) [’23年以前の”新旧の価値観”]


環境を知るとはどういうことか 流域思考のすすめ (PHPサイエンス・ワールド新書)

環境を知るとはどういうことか 流域思考のすすめ (PHPサイエンス・ワールド新書)

  • 出版社/メーカー: PHP研究所
  • 発売日: 2011/05/20
  • メディア: Kindle版

表4の書籍紹介から抜粋。


大地を構成する流域から考えよう。

岸と養老孟司は共に小網代を訪れた後、「流域思考」を提唱する。

自分が暮らす流域のすがたを把握することから、地球環境に対するリアルな認識が生まれるのだ。

後半では元・国土交通省河川局長の竹村公太郎も鼎談に参加する。


まえがき 養老孟司 から抜粋


岸さんは生物学者として価値のある研究を行う一方で、神奈川・三浦半島の小網代(こあじろ)を保全する活動や、都市河川である鶴見川の流域の防災・環境保全活動に奔走されてきた。

小網代とは、三浦半島のリアスの湾を囲む一帯を指す。

源流から海まで、一つの流域が自然のままで残っている、全国でも稀有な所である。


岸さんは理論家であり、実践家でもある。

環境の保全がどういうものであるべきか、それがよくわかっているし、そうかといって、実践することの困難も体験され、しかもそれを克服されている。

そのすべてが小網代の保全という形で結実した。

これが小さな仕事か、大きな仕事か、論は分かれるかもしれない。

でも私は立派な仕事として評価する。

論文を書くだけが学者の仕事ではない


前著『本質を見抜く力ーー環境・食料・エネルギー』の共著者である竹村広太郎さんにも参加していただけたので、前著以来、本質的にどういうことを考えているのか、その全体の筋道を、あるていどご理解いただけるのではないかと思っている。


第二章 小網代はこうして守られた


なぜ小網代の保全運動に参加したか から抜粋


■岸

「流域」とは、雨水が川に集まる大地の全体を指す言葉です。

小網代では、降った雨が森を下って川になり、上流・中流・下流で大きな湿原をつくり、干潟になって海に流れることで形成される「流域」の姿が、ワンセットで全部見られるのです。

規模でいうと八〇ヘクタール弱くらいで、そんなに大きくはないのですが、源流から海まで、自然のままの「流域」のランドスケープがそのまま残っている姿は、関東では小網代でしか見ることができません。

神奈川県が調べたところでは、全国規模でもそんなに多くはないらしい。

どうしても、道路が横切ったり、住宅地ができてしまうわけですね。

2005年、おかげさまで小網代の谷は全域が近郊緑地保全区域に指定されたのですが、そのときの指定理由の最大のポイントは、当地が「完結した自然状態の流域生態系」であるというものでした。


そのような生態系のモデルのような場所を、ゴルフ場やリゾートマンションにしてしまうという計画が、1983年に持ち上がりました。

三浦市は裕福な自治体ではありませんから、ゴルフ場で得た収入で埋め立てをやって、リゾートホテルやマンションや道路をつくり、農地造成を行なって住宅を建てるという「5点セット」の計画を打ち出したわけです。

ちょうどリゾート法で日本が沸き立っていた頃の話です。

今はもう忘れられていますが、全国各地で策定された、どう考えても人がいくはずのないリゾート開発計画が乱立していた頃の計画の一つだったのです。

その頃、慶應義塾大学の同僚で「脱原発」を訴えていた藤田裕幸さんが、小網代の近所に住みついて、「小網代の森を守れ」という運動を始めました。

私は横浜の六大事業計画の反対運動でくたびれ果て、自分の市民活動人生はもう終わりと思っていたので、最初は気がすすまなかったのですが、あまり熱心に誘ってくれるので、84年の秋に小網代へ行きました。

そのときに、眼前に広がる風景を見て思い出したのですが、小網代は私が高校生時代、自転車で横浜の鶴見から城ヶ島へ行くときに、引橋(ひきばし)の休憩ポイントから見ていた谷だった。

これは応援するしかない。


ここなら絶滅危惧種がどうとか天然記念物がどうとか、学者だけが面白がるようなテーマを通してではなく、「流域は日本列島の地形と文化の基本、そのモデルのような小網代の谷はまるごと守るべき」といった、普通の人が関わっていける議論ができるのではないか。

そう閃いて、行ったその日に運動に参加することに決めました。


翌年の1990年には、国際生態学会議という世界の生態学者を集めた大会議が横浜で開催されました。

私は「SAVE KOAJIRO」というポスター発表を行いましたが、そのときに、ランドスケープエコロジーの世界の大物たちと、小網代までバスで小旅行に出かけたんです。

私も案内役をつとめたのですが、大物たちが小網代の景色を見て

「何だ、これは!」と非常に驚いた。

彼らが言うには、

「日本人はよくわかっていないかもしれないけど、相模湾岸の遠景まで含めて、こんな地形、こんな素晴らしいランドスケープは、同緯度の北半球にはない。なぜここを壊すのだ?」


そのあたりから、県でもこれは壊せないなと思い出したらしい。


■養老

ただ、自然を守りましょうとか、調査しましょうと言うだけでは、自然は守れないということですね。

 

■岸

そうです。たとえば、自然保護を声高に叫ぶ人がやって来て、テント村をつくって「貴重種がいる」などと大騒ぎすれば、地主さんが態度を硬化させて簡単に「ジ・エンド」です。

あるいは遊びにきた子どもがマムシにかまれて亡くなってもそれでおしまいでしょう。

日本という国では本当にそうなんです。

だから、そういうことが絶対に起きないように、週末は仲間たちが朝から晩まで小網代にいて、何かあったらすぐ対応するようにしています。


夏のアカテガニのお産のシーズンには、多くの人が小網代に集まります。

1990年にはこれがテレビで紹介されて有名になってしまい、集まった方々が小網代でバーベキューをしたり花火で遊んでゴミを捨てたりする事件が起きて、地元で「岸先生」たちお断りの署名運動が起こりかけたことがあります。

地元の人々の苦情はもっともなので、私たち市民団体がお金を貯め、専門の警備会社を雇って警備してもらうこともあった。

以降現在にいたるまで、大勢の人が来る夏の大潮の土日には、訪問者と地元のトラブル、訪問者の事故防止、訪問者による自然撹乱などを回避するためのパトロールを市民団体・NPOとして実施しています。

そのパトロールを「カニパト」と呼んでいるのですが、もう二十年ぐらい続いています。


自然保護と一口で言っても、


確かに周辺に住んでいる人たちのことも


考慮しないとならないし、


地主さん、自治体との交渉、時には


世論の風向きとかもウォッチして


合わせていかないと


ならないということを話し合われている。


単なる思いだけでは越えられない何か。


 


 


第5章 流域思考が世界を救う


環境は権力者にしか守れない から抜粋


■竹村

最後に環境や流域を守っていくには行政の決断が決め手になるんですね。

だから行政は大事ですが、行政自らが何かをすることはないということを忘れてはいけない。

市民がつつかないと行政は動きません。

行政側にいた私が断言するのだから間違いありません(笑)。


つまり、行政に地域を横断して何かと何かを連携させることを期待しても駄目なんです。

ではどうすればいいのかというと、最後はやはり政治主導なんでしょう。

その政治家を動かすのは誰かというと、結局、市民なのです。

市民のエンジンがないと政治家も官僚も動かない。


岸さんがすごいのは、そのような行政の限界を見事なまでに知っていて、縦割り組織の限界を乗り越えるやり方を上手に見つけたところだと思います。

政治家としての市長や知事と話したわけで、決定権のあるリーダーをしっかり動かしている。

当時は、環境問題というテーマでは、彼らをホロリとさせない限り絶対成果を上げることはできなかったはずです。

私はずっと前から「環境は権力者にしか守れない」といってきました。

一般庶民の活動だけでは、ただ細分化するしかないのです。


問題は、緑や環境を守るために、いかにして力を持った人を味方につけるかということでしょう。

今の世の中で力を持った人というと、行政か大企業になるのでしょうが、岸さんは流域の権限を持った人や資金を持っている首長や大手の企業が支援しようというところに持ち込んだ。

みごとなものです。

これをやらなきゃ駄目です。

単なる市民運動で反対ばかり唱えても、何も解決しない。


岸先生の『生き延びるための流域思考』も


昨年、読ませていただいたので


 


その実践をどういう経緯で行い


それを支えた哲学は何だったかというのが


興味深かった。


成果のため、それをあざといだろうという人も


中にはいるのだろうけれども。


 


前著からの流域思考がもっと定着すれば


良いのになあ、と思った。


平面な地図だけでは読み取れないもの。


 


この書籍から十数年経ち、さらに運動は


加速しているのではなかろうか。


自治体のWebなどから研究してみたいと思った。


 


小網代の公式サイト、今はFacebookになった模様。


ほか


鶴見川流域センター


鶴見川流域ネットワーキング(TRネット)


 


すべてはより良い未来のために。


なんて、大昔の教育漫画のテーマみたいな


締めになってしまったけど。


でも本当にそうだとしか言えません。


正面からぶつかっていくだけでは


相手は動かないということですな。


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