続・マット・リドレー氏の書から進化を考察 [新旧の価値観(仕事以上の仕事)]
進化は万能である 人類・テクノロジー・宇宙の未来 (早川書房)
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2016/09/30
- メディア: Kindle版
今回は戻ってしまっての
第1章からってのもなんなんですが
ここが自分にとってはこの書の肝だった。
第1章 宇宙の進化 から抜粋
「スカイフック」とは、空から物体を吊るしているという、架空の装置のことだ。
第一次世界大戦のさなか、同じところに1時間留まれと命じられたある偵察機のパイロットがむかついて、皮肉を込めて返した言葉のなかで使われたのに端を発する。
「本機はスカイフックに吊るされてなどいない」と応じたわけだ。
哲学者のダニエル・デネットは、生物はある設計者が存在する証拠だという主張の比喩にスカイフックという言葉を当てた。
彼は、スカイフックの対極にあるのがクレーンだというーーー前者は解決法、説明、あるいは計画を高いところからこの世界に押し付ける。
対する後者は解決法、説明、あるいはパターンが地面から上に向かって出現するのを助ける。
自然淘汰はまさに後者である。
”スカイフック”は、過日読んだデネット氏の
書にもあったが、ここではさらに
”クレーン”というのが対比として使われている。
第4章 遺伝子の進化 から抜粋
何故ならば、原子は鋭敏な智を以って、夫々が各自の順序に、意識的に自己の位置を占めるようなこともないのは明らかであるし、また夫々が如何なる運動を起こそうかと、約束し合っているわけでもないことは明らかであるからである。
ただ、原子は数が多く、かつあらゆる工合に変化をうけ、無限のかなたから、打撃をうけて運動を起こし、宇宙中を駆り立てられて飛んでいるが故に、あらゆる種類の運動と結合の仕方を試みることによって、ついに現在、物のこのような総和が生まれ成立するに至ったこの配置に、はいるのである。
ルクレティウス、『物の本質について』第1巻より
現在わかっていないことでとくに魅惑的なのは、生命の起源である。
生物学者は自信たっぷりに、複雑な器官や生命体は単純な原子細胞から発生したのだと唱えているが、最初の原子細胞の発生はまだ暗闇(くらやみ)に包まれている。
そして人は途方に暮れると、たいてい神秘論による説明に頼りがちだ。
あの筋金入りの唯物論科学者で分子生物学者のフランシス・クリックが、1970年代に「バンスペルミア」ーーー生命は宇宙のどこかで始まり、微生物が地球にやって来て種を蒔いたのではないかという考えーーーを検討しはじめたとき、彼はやや神秘論に傾いていると心配する人が大勢いた。
実際には、彼はただ可能性について論じていたのだ。
宇宙の年齢と比較して地球が若いことを踏まえると、地球より前にどこか他の惑星で生命が生まれ、別の太陽系に影響を及ぼした可能性は高い、というわけだ。
むしろ、彼はこの問題の手強さを強調していたといっていい。
生命は、エントロピーと無秩序への流れを、少なくとも局所的に逆転させる能力、すなわち、情報を利用して、カオスから局所的な秩序をつくり、そのためにエネルギーを消費する能力である。
この三つのスキルにとって欠かせないのが、とくに三種類の分子、すなわち情報を保存するためのDNA、秩序をつくるためのタンパク質、そしてエネルギー交換の媒体としてのATPである。
これらがどうして集まったのかはニワトリが先か卵が先かの問題である。
DNAはタンパク質がなければできないし、タンパク質はDNAなしにはできない。
エネルギーに関していえば、一個の細菌は一世代で体重の50倍のATP分子を消費する。
初期の生命はもっと浪費家だったに違いないが、エネルギーを効果的に利用したり保存したりするための今の分子機構はなかっただろう。
いったいどこで十分なATPを見つけたのか?
この三つのを適所に配置する役割を果たしたクレーンはRNAであろうと思われる。
RNAは今も細胞の中でいろいろと重要な役割を果たしている分子であり、DNAのように情報を保存することも、タンパク質がするように触媒として反応を促進することもできる。
さらに、RNAはATPと同じように、塩基とリン酸とリポース酸からできている。
したがって、RNA遺伝子を有するRNAの体からなる生き物がRNAの成分をエネルギー通貨として使う「RNAワールド」がかつてあった、というのが有力な説である。
問題は、このシステムもものすごく複雑で相互依存しているため、何もないところから生まれたとは想像し難いことだ。
たとえば、どうやって散逸を防いだのだろう?
どうやって細胞膜による囲いなしに、成分が離れ離れにならないようにして、エネルギーを集結させたのか?
チャールズ・ダーウィンが生命の起源として思い描いた「温かい水たまり」の中では、生命はたやすく溶解してしまっただろう。
でもあきらめてはいけない。
最近まで、RNAワールドの起源はおいそれと解けそうもない問題に思われたため、神秘論者に希望を与えていた。
ジョン・ホーガンは2011年の《サイエンティフィック・アメリカン》誌に、
「シーッ!創造説論者には内緒だけど、科学者は生命の起源について手掛かりがつかめていない」
と題した記事を書いた。
しかしそれからわずか数年後の現在、答えがぼんやりと見えて来ている。
生命の系統樹の根元にあるのは、ほかの生物のように炭水化物を燃やすのではなく、二酸化炭素をメタンまたは有機化合物の酢酸塩に変換することによって、自分の電池を効率的に充電する単純細胞であることが、DNA配列からわかるのだ。
40億年前の海は二酸化炭素で飽和していて、酸性の状態だった。
噴出孔からのアルカリ性の液体が酸性の海水と出会うところでは、噴出孔に形成される細孔の鉄とニッケルと硫黄でできた薄い壁の内外で、プロトンの急勾配があった。
その勾配には、現在の細胞内のものとよく似た規模の電位差である。
このような無機物でできた細孔の内側では、化学物質がエネルギー豊富な空間にはまり込み、そのエネルギーを利用してさらに複雑な分子ができあがった可能性がある。
それらの高分子がーーープロトン勾配によるエネルギーを使って偶然自己複製するようになってーーーしだいに適者生存パターンの影響を受けるようになる。
あとは、ダニエル・デネットの言葉を借りれば、アルゴリズムである。
要するに、生命の起源の創発説に手が届きそうなのだ。
すべてクレーン、スカイフックなし から抜粋
先ほど述べたように、生命の特徴は秩序をつくるためにエネルギーを得ることである。
これは文明の特質でもある。
人が建物を建て、装置をつくり、アイデアを生み出すのにエネルギーを使うのと同じように、遺伝子はタンパク質の構造を作り出すためにエネルギーを使う。
一個の細菌がどれだけ大きく成長できるかは、各遺伝子が利用できるエネルギーの量に制限される。
なぜなら、エネルギーは細胞膜の向こうにプロトンを汲み出す事によって膜のところで得られるが、細胞が大きくなればなるほど、その体積の割に表面積が小さくなるからだ。
裸眼で見えるくらいにまで大きく成長する細菌は、内部に巨大な空の液胞を抱えているのだけである。
ところが生命が誕生してから20億年ほどたったころ、複雑な内部構造を持つ巨大な細胞が現れはじめた。
それは真核生物と呼ばれるもので、私たちは(動物だけでなく植物、菌類、原虫も)その仲間である。
ニック・レーンは、真核生物の(革命的)進化は融合によって可能になったと主張する。
細菌の一団が古細胞(別種の微生物)の細部内部に住みつくようになったのだ。
現在、この細菌の子孫はミトコンドリアと呼ばれており、私たちが生きるのに必要なエネルギーを生み出している。
あなたが生きている限り刻々と、あなたの体内に何千兆というミトコンドリアが細胞膜の向こうに無数のプロトンをくみ出し、タンパク質、DNA、その他の高分子をつくり出すために必要な電気エネルギーを獲得している。
ミトコンドリアにもまだ独自の遺伝子があるが、数は少なく、私たちの場合は13個だ。
このゲノムの単純化がカギを握っていた。
そのおかげでミトコンドリアは、「私たちのゲノム」の仕事をサポートするための余剰エネルギーをはるかにたくさん生み出すことができるようになり、そのおかげで私たちは複雑な細胞、複雑な組織、そして複雑な体を持つことができている。
その結果、私たち真核生物では、遺伝子一個当たりが利用できるエネルギーが何万倍も多く、各遺伝子の生産性がはるかに大きくなっている。
そのため、私たちの細胞は大きくなっただけでなく、より複雑な構造にもなっている。
私たちはミトコンドリアにたくさんの内膜を取り入れ、そのあとその内膜の土台となるゲノムを単純化することによって、細菌細胞に課せられていた大きさの制約を克服したのである。
これと驚くほどの類似点が産業革命に見られる。
農耕社会では、家族は自分たちが食べる食物をぎりぎりつくることはできるが、他人を養うためのものはほとんど残らない。
したがって、城や、ビロードのコートや、武具など、つくるのに余剰エネルギーが必要なものを持てる人はごくわずかだ。
牛、馬、風、水を利用すれば、わずかな余剰エネルギーは生まれるが、あまり多くない。
木は役に立たないーーー熱は生むが仕事はしない。
そのため、資本ーーー建造物と物資ーーーという点で、社会がどれだけつくり出せるかには恒久的な限界があった。
そのあと産業革命(による進化)が起こり、石炭のかたちでほぼ尽きることなく供給されるエネルギーが利用されるようになった。
炭鉱労働者は小作農と違って、自分たちが消費するよりはるかにたくさんのエネルギーを生み出す。
彼らは採掘すればするほど、採掘がうまくなる。
最初の蒸気機関によって熱と仕事の境界が破られたため、石炭のエネルギーが人の仕事を拡大できるようになった。
真核生物の(革命的)進化が遺伝子一個当たりのエネルギー量を飛躍的に増大させたのと同じように、産業革命(による進化)は労働者一人当たりのエネルギー量をいきなり飛躍的に増大させた。
その余剰エネルギーによって、私たちの生活を豊かにする住宅、機械、ソフトウェア、道具類ーーー資本ーーーが構築された(いまもされている)と、エネルギー経済に詳しいジョン・コンスタブルは論じている。
アメリカ人はナイジェリア人の10倍のエネルギーを消費しており、それはつまり10倍豊かであるといっているようなものだ。
真核生物による余剰エネルギー生成の進化も、産業化によるエネルギーの進化も、計画なしに突然生じた現象である。
だが話が脱線した。
ゲノムに戻ろう。
ゲノムはひどく複雑なデジタルコンピュータプログラムである。
ほんのささいなミスが、(人間の場合)二万個ある遺伝子の発現パターン、量、または配列を変化させるか、あるいは遺伝子をオンオフする何十万という制御配列の相互作用に影響し、結果的に悲惨な奇形を生んだり病を引き起こしたりする事になる。
たいていの人の場合、80年から90年というとてつもなく長い歳月、このコンピュータプログラムはほとんど問題を起こすことなくスムーズに作動する。
システムを動かし続けるために、あなたの体内で時々刻々と起こっているはずのことについて、考えてみよう。
あなたの体には、そのかなりの部分を占めている細菌は数に入れずに、数十兆個の細胞がある。
これらの細胞それぞれがつねに数千個の遺伝子を転写しているが、この手順には、数百個のタンパク質が特定のかたちで集まり、何百万とある塩基ペアそれぞれのために何十もの化学反応を触媒する必要がある。
そうして転写がひとつ行われるたびに、何千というアミノ酸がつながったタンパク質分子が一個生成される。
そのために投入されるリボソームとは、何十という動くパーツからできていて、立て続けに化学反応を触媒できるマシンだ。
タンパク質そのものは次に細胞の内外に散開して、反応を速め、物質を運び、シグナルを伝達し、構造を下支えする。
この非常に複雑な事象が、あなたの体内であなたを生かしておくために、1秒に何億何兆回と起こっていて、しかも間違うことはほとんどない。
まるで世界経済のミニチュア版だが、もっと複雑である。
そのようなコンピュータがそのようなプログラムを実行するには、プログラマがいるはずだという空想を追い払うのは難しい。
ヒトゲノム計画の初期の遺伝学者は、下位配列を指揮する「マスター遺伝子」についてうわさしていた。
しかしそのようなマスター遺伝子は存在せず、もちろん賢いプログラマなどいない。
すべては進化によって少しずつ出現したことであり、しかも民主的に運営されている。
各遺伝子は小さな役割を果たしているだけで、全体の計画を把握している遺伝子はない。
にもかかわらず、これらのさまざまな緻密な相互作用から、比類ない複雑さと秩序が自発的にデザインされる。
秩序は監督者が誰もいないところに出現しうるという、啓蒙運動の理想が妥当であることを示す、またとない好例だ。
配列が決定したゲノムは、管理なしでも秩序と複雑さがありうることをはっきりと証明している。
進化はなにも”生物”に限ったことではい。
宇宙、道徳、文化、経済、テクノロジー、
心、人格、教育、人口、リーダーシップ、
政府、宗教、通貨、インターネット、
そして未来。
遺伝子に関していうと
何かにデザインされたものなのか?
構造がわかればわかるほど良くできている。
自然にしちゃ不自然だとでも言わんばかりに。
すごい難しい、詩的な哲学みたいだ。
このあと、「誰のため?」になり
ドーキンスさんの利己的な遺伝子にも
たどり着くという。
めっちゃ長くなりそうなのと
理解できなくなってきた夜勤明け、
家族でくら寿司に行ってきて
一休みさせていただく
休日前なのでした。