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望月衣塑子氏の書から”国家・組織・個人”を考察 [’23年以前の”新旧の価値観”]


武器輸出と日本企業 (角川新書)

武器輸出と日本企業 (角川新書)

  • 作者: 望月 衣塑子
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2016/07/10
  • メディア: 新書


はじめに 


日本で初めての武器展示会 から抜粋


2015年5月13日から3日間にわたり、海上防衛についての大型の武器展示会「MAST Asia 2015」が開催された。

国内では初めての武器の展示会で、後援は防衛省、外務省、経済産業省だ。


武器といってもすぐに軍事に結びつくものだけとは限らない。

実際、政府や防衛省は武器ではなく、「防衛装備品」という言葉を使っている。

富士通が展示していたのは、大容量の高速無線通信ネットワークを可能にする半導体ガリウムナイトライドのパネルだ。

「軍事だけでなく、広く海洋安全のために国際社会で使えるものを」と、開発したという。


展示会の来場者数の3795人は、当初の予想を倍近く上回った。

反響を受け、主催者であるイギリスの民間企業マスト・コミュニケーションは、2017年6月に千葉県の幕張メッセで2回目を開催することに決めた。


1回目の展示会では見送られていた商談ブースを設けることなども検討している。


武器輸出、47年ぶりの大転換


から抜粋


一般にいわれている「武器輸出三原則」は、1967年、佐藤栄作首相が国会答弁で表明したものだ。

具体的には次の三項である。


①共産圏諸国への武器輸出は認められない

②国連決議により武器等の輸出が禁止されている国への武器輸出は認められない

③国際紛争の当事国または、その恐れのある国への武器輸出は認められない


さらに76年2月、三木武夫首相が「武器輸出についての政府の統一見解」を発表する。


①三原則対象地域については「武器」の輸出を認めない

②三原則対象地域以外の地域については、武器の輸出を慎む

③武器製造の関連設備の輸出については、武器に準じて取り扱う


これらを合わせて「武器輸出三原則等」といわれてきた。

以後、その時々で例外規定が設けられてきたが、基本的に政府は武器輸出へ慎重な姿勢をとってきた。

一方で、自民党防衛族や経済団体連合会(2002年に日本経営者団体連盟と統合し、日本経済団体連合会に名称を変更)に属する多くの防衛企業は、武器輸出の解禁を強く要望し、ことあるごとに武器輸出三原則の見直しは俎上に載せられてきた。

そして、2014年4月、第二次安倍晋三内閣の下で事実上の解禁となったのである。


武器輸出の解禁が、安倍首相により急速に進められたという論調もあるが、それは一面的な見方だろう。

政財官が一体となった地ならしは着々と進められてきており、09年〜12年の民主党政権下も例外ではなかった

11年12月、野田佳彦政権の藤村修官房長官談話によって、武器輸出を大幅緩和する方針が決定。

民主党政権はその直後に崩壊し、新たに誕生した第二次安倍政権が一定の条件の下で武器を原則輸出できる、「防衛装備移転三原則」を閣議決定したのだった。


①国連安全保障理事会の決議などに違反する国や紛争当事国には輸出しない

②輸出を認める場合を限定し、厳格審査する

③輸出は目的外使用や第三国移転について適正管理が確保される場合に限る


この原則では、従来の三原則での「紛争当事国になる恐れのある国」は禁輸の対象から外された。

イスラエルや中東諸国への輸出も事実上制限がかからず、紛争に加担する可能性は高まったといえるだろう。

また従来の三原則にあった「国際紛争の助長回避」という基本理念は明記されなかった。


新三原則が制定され、防衛装備庁も発足したことで、武器輸出に向けた国内の環境はある程度整ったといえる。


この書では、MAST Asia 2015の出展企業の


売り上げベスト10がリスト化されている。


三菱重工、川崎重工、NEC、ANAホールディングス


三菱電機、IHI、富士通、東芝、コマツ、三井造船。


これらはWebでも調べようと思えばあるのだろうけど


この書で取り上げることに著者の努力が窺えます。


企業倫理というかコンプライアンス、ガバナンスが


問われるのは言うに及ばず。


第2章 さまよう企業人たち


海外から熱視線を注ぐ日本の電子技術 から抜粋


ベトナム戦争の末期には、アメリカ軍がソニーの開発したビデオカメラをスマート爆弾の誘導部に装着。

レーザー誘導兵器に利用された。

爆撃機から投下後の落下状況がスクリーンに映し出され、誘導係が目標物まで導くやり方だった。

これにより、アメリカ軍は北爆で多大な成果を上げた。


このソニーの製品の使われ方を武器輸出と


絡めるのはちと無理があるように思うのだけど。


これをいったらキリがないですよ、


電子機器とか半導体とか自動車企業とかであれば。


かといって見過ごせるものでもないと思うのは


もし自分と直接関係している人の作った製品が


戦争に使われているとしたら、ってことで。


つまるところ経済優先にしてしまう何かが問題で


国家や組織や個人の倫理や感性が問われる。


科学とか技術とか、


本当に難しい問題を孕んでいます。


あとがき から抜粋


それまでは事件などを扱う社会部に所属していた私が、2011年、一人目の出産明けに配属されたのは、社会部でなく畑の違う経済部。

しかも担当は原発問題で混乱を極めていた経済産業省だった。


戦後初の東大総長(15代)の南原繁が記した『南原繁 教育改革・大学改革論集』に出会った。

南原は、戦後、東大が掲げてきた軍事研究禁止の原則において象徴的な存在の一人だ。


国の政治に何か重大な変化や転換が起きるときには、その前兆として現れるのが、まず教育と学問への干渉と圧迫である。

われわれは、満州事変以来の苦い経験によって、それを言うのである。」


「大切なことは政治が教育を支配し、変更するのではなく、教育こそいずれの政党の政治からも中立し、むしろ政治の変わらざる指針となるべきものと考える。

…いまの時代に必要なものは、実に真理と正義を愛する真に自由の人間の育成であり、そういう人間が我が国家社会を支え、その担い手になってこそ、祖国をしてふたたびゆるぎない民主主義と文化的平和国家たらしめることができる


戦後70年、日本は憲法9条を国是とし、武力の放棄、交戦権の否認を掲げた。

それらを捨て、これからを担う子どもにとって戦争や武器を身近でありふれたものにしようとしている。

この状況を黙って見過ごすわけにはいかない。


時を経てただいま現在、岸田政権、


三原則をどのようにしようとしているか。


東京新聞の記事を見る限り


継続しているとしか思えない。


東京新聞ってところがミソですな、余談だけど。


この書に何箇所か出てくるけれど


国の中枢に近い人たちほど


武器輸出はお国や国民を守るためとおっしゃる。


それを受ける”下請け”という言葉は好きではないが


の、人たちほど「本当はやりたくない」と。


この著書自身も、報道の方で活躍したいが、


出産ブランクを経ての経済部に回されたと。


どなたかが旧ツイッター、現Xでの著者のつぶやきで


戦闘機の名前が違っていると指摘されていたけど


軍事ライターじゃないから、そんなこともあるだろと。


そんなん知らんよ、仕事なんだから正確性を、と


寛容と呼べない社会。


なにか、様々なこととリンクする窮屈な社会構造。


よくある話としてしまえばそれまでだけど。


余談だけど南原三原則に出てくる”満州事変”って


遠い昔、自分の亡祖父も鉄道人員で


かり出されたといっていたのを思い出す。


いろんなことを考えさせられた書でございました。


 


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