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ローレンツ博士から遙かなる歴史の連続性を考察 [’23年以前の”新旧の価値観”]


鏡の背面: 人間的認識の自然誌的考察 (ちくま学芸文庫)

鏡の背面: 人間的認識の自然誌的考察 (ちくま学芸文庫)

  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2017/11/09
  • メディア: 文庫

ドーキンスさんや、動物行動学系の書を

斜め読みしてたら頻回に出てくるローレンツ博士。


コンラート・ローレンツ(Konrad Lorenz)

1903年ー1989年。ウィーン生まれ。

動物行動学を確立した。

ウィーン大学で医学・哲学・動物学を学ぶ。

1949年比較行動学研究所を創立。

マックス・ブランク行動生理学研究所所長等を歴任した後、コンラート・ローレンツ研究所を設立。

1973年N.ティンバーゲンらとともにノーベル生理学賞を受賞した。

著書:『攻撃』『文明化した人間の八つの大罪』『動物行動学』『ソロモンの指環』他。


それよりも、5−6年前だったか


音楽家の早川義夫さんが、自分の元ネタとでも


仰るかのように挙げられていたので


この書と対峙してみたのでございます。


ほとんど討ち死にですけれども。


第15章 鏡の背面


第1節 回顧


から抜粋


私のこの本で、人間の認識メカニズムについての一つの展望を与えようという、たぶんあまりにも大胆不敵な試みを企てたのだ。

そのような企てを行うための真の資格は、ただ包括的な知識だけが与えることができるのだろうが、自分はそれを所有しているなどという己惚れは私には毛頭ない。

私の試みを是認するものとして私がわずかに持ち出すことができるのは、これまでだれもこれを行なっていないということであり、さらにまたわれわれは人間の認識作用に対して反省的な全体的考察を行うべく切に要請されているということである。


というのはこれらのどれもが作用失敗を犯す危険を孕んでおり、特にその傾向が強いのは、文化的知識を獲得したり貯蔵したりする過程だからである。

生理学的な洞察はつねに、病的過程の理解のための前提であり、それゆえにまた病的過程を治療しようとはたらきかけるあらゆる試みのための前提である。

そして逆に病理学は、きわめてしばしば正常で健全な作用を理解するための鍵を提供してくれる。


第二節 認識作用をとり扱う自然科学の意義


から抜粋


人間の社会的行動のなかにも、文化的影響によっては変えることのできない本能的なものが含まれているというわれわれ行動学者の証言に対して、それは極端な文化悲観論への信仰告白であるとする解釈がしばしば向けられてる。

しかしこれはまったく是認しえない解釈である。

もし誰かが差し迫った危険を指摘するならば、そのことは彼が絶対に、差し迫った禍いを避け得ないものと見なす運命論者ではないということを示しているからである。


もし私の記述を単純化することができるとするならば、私はこれまで述べてきたすべての点において次の述べてきた仮定を固執してきた。

すなわち、私が論じた文化発達と文化の衰退との諸過程はたいていの人間にとって未知の者であるという仮定、もしくは少なくとも、私が問題にしてきた諸認識は人類史の将来の発展に対していかなる遡及効果も及ぼさないだろうし、また及ぼすことはできないという仮定である。


こう述べると、まるで私が、自分は人間の認識装置の、つまり《鏡の背面》の自然科学的研究を必須のものと見なした唯一の人間であると信じてでもいるかのように聞こえかねない。

そのような己惚れよりも私から遠いものはない。

それどころか私は、ここに再現した認識論的見解や倫理的意見が、その数を急速にふやしつつある多くの思想家たちによって分かちもたれているという喜ばしい事実を深く意識している。

やがてある時期に《空気のようなものとなる》認識が存在するのである。


確かにこんにち人類の状況は、これまでのいかなる時期よりも危険である。

しかしながらわれわれの文化はその自然科学を通して遂行される省察によって、潜在的には、これまですべての高等文化がその犠牲となった没落から免れうる立場に置かれている

世界史においてはじめて、そうなのである。


学問から自然・生き物を鑑み


文明批判せざるを得ない態度は


ダーウィンや養老先生たちを彷彿ってのは


自分だけの気のせいだろうか。


まったく自分には柄にないこの書は


もちろんほとんど難しくて読めないし


1ミクロンくらいしか理解できてないけど


何か得体の知れない深さを感じる。


同時に、古さ、新しさ、に惑わされては


本質は見えてこないっていう構図も。


訳者あとがき 1974年7月 谷口茂


から抜粋


本書はウィーン生まれの比較行動学者のコンラート・ローレンツの最新著の全訳である。

昨年度のノーベル賞受賞者である著者については、すでにその著書のいくつかが翻訳されているし、一般新聞などでも紹介されたから、かなりよく知られている。

現代の科学の一般的な傾向である実験と数式的表現に反対して、自然な観察と文章による記述を頑固に押し通している彼の方法は、専門分野からはさまざまな批判を受けているが、学問的成果を一般人に親しみ易いものにしてくれた点だけでも、確かにノーベル賞に値する。

またとくに『攻撃』や『文明化した人間の八つの大罪』で顕著になった態度だが、その広く深い知識にもとづく文明批判は説得力に富み、人類の終末を憂える人々の共感を呼んでいる。


『鏡の背面』は、『八つの大罪』の文明批判の前提と論証である。


具体的には人間の行動の基礎である認識のはたらきを、全面的に批判して明らかにする作業として展開される。

全面的にとは、五官から中枢神経系まで含めた人間の全認識装置とその機能の解明が、ただ単に個的人間において行われるのではなく、アメーバやゾウリムシの行動から始まって、最終的には人間の社会の営みにまで至る(生きたシステム)全域に亘って繰り展げられる、その徹底性の謂れである。


初め目次を読んだとき、これはとても歯が立たないと思った。


比較的理解し易そうな序章〜3章と8章以下を走り読みしてみた。

それが運のツキだった。

ローレンツの躍動的な文章の調子と並々ならぬ熱意について浮かされて、この本はおよそ世界と人間とに興味を持つものに対する自然科学者からの挑戦状もしくは誘惑の手紙にほかならないと感じた。


何はともあれ自己流儀に熟読したことだけは確かである。

そしてローレンツの努力が、ジャック・モノーカール・ポパーチョムスキーらの努力と深いところで連携している事情をいささかなりとも知ることができたことは、せめて諸学の成果を勝手にツマミ食いすることで満足しているものにとっても、非常な喜びであった。


専門主義の弊や、とくに日本で著しい現象だが、精神科学に従事する人間の自然科学への無関心ということの孕む問題は、こんにちようやく多くの人々の自覚するところとなった。

本書はそれらの人々へのローレンツの呼びかけでもある。


生物学者の日高敏隆教授には校正刷りを読んでいただき、有益な助言をたまわった。


新装版のための訳者あとがき


1989年8月 谷口茂


から抜粋


ローレンツ博士はこの二月、残念ながらこの世を去った。

「ローレンツはもう古い」という提言すら聞かれなくなったエソロジーの日進月歩だが、それだけにこの創設者の偉大さは、今後ますます輝き出すことであろう。


彼が本書で打ち建てた「人間社会まで含めたすべての生きたシステムの総合的研究」の基礎は、人類の生態的危機が現実となった今こそ、学問を通して人類存続に貢献しようと願うすべての学徒にとって、最も頼りとなる足場の一つであろう。


「ちくま学芸文庫」版再刊に寄せて


2017年10月8日 谷口茂


から抜粋


この本も版を重ねましたが、出版元の事情で絶版となり、そのうち著者の名前も忘れられていきました。

その代わり、彼の業績の最大のものである「刷り込み」理論は、ユクスキュルの「環境世界」理論と同じように、動物行動学の枠を超えて広く人間解釈に適用されるようになりました。

人は死んでも名を残すというが、学者の真の名誉は、名は消えても説が残るということだろうから、さぞやローレンツ先生も”以って瞑すべし”だなと思ったことでした。

それから20年ほどたち、突如として再発行の報に接し、驚きとともに深い喜びに浸っております。

訳者も年をとり、時として著者のクリスチャンネームを忘れる体たらくながら、長生きして良かったと思います。


谷口茂(たにぐちしげる)

1933年鹿児島県生まれ。

東京大学大学院宗教学科博士課程修了。

明治大学大学名誉教授。

ドイツ文学者、宗教学者。著訳者多数。


日高先生もかかわられていたのか。


助言ってことなのだろうけど。


2017年まで版を重ねるほど、人気のある書には


思えないのだけどと余計なお世話だが


やはり自分のように何かを感じる人がいるのか


それとも自分にはわからないだけで


世間の人は理解して支持されているのか。


なんといってもノーベル賞だからなあ。


エソロジー自体見えないくらいの深さにあるけど


良書は受け継がれて、時代の旗手たちによって


翻訳・改訂されていってほしいと願いたくなる。


谷口先生のこの翻訳もいつか、他の誰かに


受け継がれていくような悠久の歴史に


思いを馳せつつ、洗濯物をたたみ始め


妻を助けないと。


子供は具合悪くて学校休んでいるから


昼食も作りますよ!という積極的なパパでした。


 


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