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進化論のウォレスを二冊から考察 [’23年以前の”新旧の価値観”]

ダーウィンの徒花ともいえるような


ウォレスさんについて、


なぜか気になるこの頃、二冊読んでみた。


 



渡部昇一遺稿 幸福なる人生――ウォレス伝

渡部昇一遺稿 幸福なる人生――ウォレス伝

  • 作者: 渡部 昇一
  • 出版社/メーカー: 扶桑社
  • 発売日: 2020/12/20
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


科学からオカルトへ A・R・ウォレスの場合


2001年1月20日上智大学における最終講義


ウォレスという人 から抜粋


ウォレスの生涯を簡単に申し上げますと、ダーウィンより約20歳くらい若い人でありますが、ウェールズのモンマスシャー ーー今はグウェントというのだと思いますがーー に生まれました。

割と豊かな家に生まれました。

お父さんは職業のない、何もしないで食えるような家でした。

そこの八人兄弟の七番目に生まれました。

ところがお父さんは出版などに手を出しまして、すってんてんになってしまいます。

それで彼は学校に入りましたけれども、授業料を払うことができずに、日本の学歴で言えば中学一年くらいになった時に、その学校の下級生を教えることで授業料を免除してもらったりしております。


ウォレスにはもう一人のお兄さん(ウィリアム兄)がいて、測量士をやっておりました。

当時は測量が非常に盛んだったようです。


そこで、その測量をするお兄さんにつきまして、約五年間を測量しながら勉強しています。

お兄さんはお兄さんで、教育のある、非常な勉強家で、当時の新しい学問をよくやる人でしたので、その影響下で一生懸命勉強しています。

上は天文学から、下は地質学。

これは測量にも必要なことであります。

それから数学。

このようなことをやって、今で言えば高校一年から大学2年くらいまでの間、毎日ずっと測量をやって歩きました。

そのかたわら生物学、特に植物を勉強して、大英博物館の植物の項目をほとんど頭に入れるほどよくやったようです。

それから二年間くらい、今後は学校の先生をレスターでやります。


そこの住み込みの教師になって子供たちを教えるのですが、その間にいろいろな、私から見て将来非常に重要なものを勉強するのです。

その時に数学を学んでいます。

それで微分を終わりまして、積分くらいに入りました。


それからもっと面白いのは、フレノロジーという骨相学です。

骨相学と、メスメリズムという催眠術。

それを実際体験するのです。

骨相学というのは、頭の格好を撫でまして、その人の性格はこうこう、それから将来どっちの方に向いている骨相であるかというのを書いてもらったのです。

その書いてもらったのを彼はずっと持っていましたが、晩年見ますと、ほとんど90%当たっている。


骨相学というのは、その後忘れられている学問でありますが、今から考えてみても非常に進んだ学問でありました。

というのは、脳の各部分が全部機能が違うのだということに初めて気がついた医者たちが骨相学者だったのです。

それまでは脳というのは一つしかなくて、脳のこの部分はこっちのこの機能をしているなんていうことは考えなかった。

それは骨相学から始まるのです。

そして、その骨相の見方が非常に重要なのは、頭蓋の大きところにある能力が発達しているのですが、単にその部分が大きいだけではだめなのです。

他のところの微妙なバランスを見て発達していると言わなければだめなので、そのへんは非常に難しいところなのです。

しかし、それさえ訓練した人がやると、ほとんど神秘的なほどよく当たることを彼は実際体験しております。


それから骨相を見ながら催眠をかけますと、ものすごく良くかかるということを彼はやり始めるわけです。


そのようなことをやっている25歳前後に、ベーツという、これまた学校に行かない男で、昆虫採集ばっかりやっている男と知り合いになります。

それでものすごく刺激を受けまして、今までは主として植物に興味があったのが、昆虫まで採集し始めるのです。


当時は脳は一つの機能という


認識のされ方という件。


そんな時代だったのですねえ。


その後、ベーツとウォレスは


マレー諸島に行くことになる。


半分仕事が目的だったよう。


生物を採集・剥製にして


師事していた教授に


送っていたようで。


遠方から送られる生物は当時も


貴重だっただろうと想像に難くない。


ウォレスとダーウィン から抜粋


そのようなことをやって、2年目にサラワク(今のブルネイ)に行きました。


その時、彼はこういうことに気がついたのです。

あらゆる種は、その種の前の種と極めて似ていて必ず同時に存在している、と。

地質学的にも、実際見て回ったところでも、ということを発見して論文を書き、それをダーウィンに送りました。

ダーウィンはこれを見てびっくりするわけです。

ダーウィンはそれからすぐに手紙を書きます。

自分も二十何年間かやってきた、と。

100パーセントあなたの言っていることに賛成だ、などという手紙を書きますけれども、ウォレスの発見はダーウィンがそれまで20年間やったかは別として思いつかなかった原理なのです。

どういうことかと言いますと、ウォレスが説明したのはこういうことなのです。

一つの種から変種ができる。

変種ができて、その変種からまた変種ができる。

こうして無限にいけば、最終的には別の種になるのではないかという仮説を立てるわけです。

この「無限」という概念が非常に重要で、大空を見て、

「あ、無限に高い」

という無限は、単なる無限なのですが、だんだん積み重なって無限に行ったらどうなるのかという無限は、微分からしか出ないのです。


微分のこうした問題を私は非常に印象深く覚えています。


円の面積の問題です。

4分の1出せばいいわけです。

この出し方を、ていねいに当時の教科ではやったのです。

円の面積は出しようがありませんから、半分割って四角にすればいいのです。

そうしてその中に作るこの四角の数を増やしていけばいいわけです。

これをずっと足していく式をつくれば、無限級数の式になります。

無限級数の式は、日本でも関考和ニュートンの数年前に発見したと言われています。


ダーウィンは積分をやらなかったのです。

微分もやりませんでした。

ウォレスはやっていました。

ただ、習った理論などはおそらく忘れていたと思います。


種も少しづつ変わって、同じように変わっていけば、AからAダッシュへという無限級数です。

するとBになるのではなかろうか。

このことを生物学の本職の人は「分岐の法則」というのですが、この分岐の法則にはダーウィンは気がつかなったのです。


分岐の法則、知らなかったのかなあ。


そうは思えないのだよなあ。


有名な系統樹は書いてたので、ダーウィン


わかってたのではないかなあ。


微分・積分からの考察は不遜ながらも渡辺先生の


フライングではないのかと訝しく思ったり。


それは置いておいて、ウォレスについてここまで


調べている書籍は他にないのではないか。


最初の章は一人称で書かれててその頃


日本の歴史ではどういうことがあったかとかあるしで


日本で読まれるべき人物と思っておられたのだろう。


上記はその章からは引かず第二章の


講演から引かせていただいております。


 


次は渡部・養老両先生の対談から。



日本人ならこう考える

日本人ならこう考える

  • 作者: 渡部 昇一 養老 孟司
  • 出版社/メーカー: PHP研究所
  • 発売日: 2009/03/11
  • メディア: 単行本


第三章「弱肉強食」はもう古いーー進化論で読み解く現代社会


細胞そのものは作り出せない から抜粋


■養老

「生命の起源」といってしまうとよくわからなくなるので、私は「システムの起源」と考えた方が良いと思っています。

「システム」とは、複数の構成要素を持っていて、しかも同じものがある程度継続するものですね。

では「生命システムの起源」は何か。

ルドルフ・カール・ウィルヒョーというドイツの生物学者が

「すべての細胞は細胞からできた」

といいましたが、このテーゼはいまも崩れていません。

つまり人間は、いまだに「細胞そのもの」をつくりだすのに成功していないのです。

既存の細胞というシステムからしか、細胞は作れていない。


■渡部

ウォレスのおもしろいところは、人間の脳の発達に当てはまらないということを証明するために、心霊術や超心理を研究するんですね。

それこそ虫の小さな差を調べて新種を発見していくような綿密さで、当時流行のスピリチュアリズムを全部検証して、最後にはインチキができないように自分の家でも心霊術を行う。

その結論は「霊媒さえよければ、でる」(笑)。

そんなことを書いたものだから、さまざまな重大な発見をしたのに、自然科学の世界からはほとんど葬られた存在になってしまいました。


生物は「システム」と「情報」から抜粋


■養老

人間の脳の発達に進化論が当てはまるか否か。

それを考えるには、生物のあり方を

「システム」と「情報」にわけるとわかりやすいと思います。

生物学の歴史に大きな足跡を残したダーウィンやメンデル、ヘッケルなどは、ある意味ではみんな同じ穴の狢(むじな)で、何をしたかといえば、生き物を「情報化」したのです。

たとえばメンデルは、エンドウ豆の緑色のものと黄色のものを

「A(ラージエー)」と「a(スモールエー)」

というように書き分けました。

生物の形式を一個の情報で捉えたわけです。


これを記号化したのがメンデルの功績であって、遺伝をその記号の組み合わせで説明したのは、いってみれば付録みたいなもの。

つまり、われわれが生物を見るときにはアナログで見てしまいますが、そうではなしに、生物の形式を一個の情報として捉えて、アルファベット化したのです。

アルファベット化というのは、「情報」の基本ですね。

ダーウィンがいった「自然選択説」というのは、生存競争の結果、環境に適応しないものは滅びるということですが、じつはこれは「情報」の原則なのです。

僕が何をいったって、周りの人が聞いてくれなければ、その情報は生き延びない。

新聞に何を書こうがテレビで何をしゃべろうが、みんなの頭に残らなければ生き残れない。

じつは情報くらい自然選択に関わるものはないんです。

ダーウィンがいったことは、じつは生物を「情報」として見たときに典型的に見えてくるものにほかならない。


そして、

「固体発生は系統発生を短縮して繰り返す」

という生物発生原則を主張したヘッケルの考え方は、学者が論文を書くのと一緒(笑)。

どういうことかというと、それまでの学者が何をやってきたかということを短く要約して説明して、そのあとに自分の結果を付け加える。

生物も、受精卵から個体へと生育する過程で、祖先たちがやってきたことを短く要約して、そのあとに新しく何かがちょっと付け加えられると進化が起こる。

つまり、この三つの業績というのは、情報に関する経験則を生物の原理として主張したものなのです。

その発想が、そのまま遺伝子にも当てはめられます。

つまり遺伝子というのは明らかに記号であって、ATGCという四つの記号で全部書ける。

それでたとえば、リチャード・ドーキンスという人は『利己的な遺伝子』という本を書いて、

「われわれ個体は、遺伝子を運んでいく乗り物だ」

という表現をしました。これは非常に売れましたね。

しかし、ドーキンスが完全に忘れてしまっていることが一つある。

それは先ほど紹介したウィルヒョーですよ。

じつは進化の始まりからずっと存在しているのは、細胞という「システム」でもあるのです。


■渡部

遺伝子というものにとらわれて、細胞を無視したということですね。


■養老

別の言い方をすれば、「情報」を中心に考えて、「システム」を無視したということです。

生物を情報としてみ始めたのは19世紀のヨーロッパからで、それがダーウィンでありメンデルであり、ヘッケルだったのです。


「情報」と「システム」という構図や、


メンデルは記号化したのが最大の功績、


というのは養老先生ならではの表現だなあ。


これは何度も反芻しないとわかりませんよ。


ウォレスについていうと、奥本先生もおっしゃっている


本当に人格が高いと感じる。


ダーウィンに対して感謝していて、


「種の起源」に自分の論説が多くあったとしても


個人で発表したら埋もれてだろうし、何よりも


ダーウィンを尊敬していて、だから


今の自分もあるみたいな。


それは本当にそうなのではないかと。


ダーウィンに消された男』(1997年)なんて


書籍もあったりで、


渡辺先生の書籍はこれも含まれての自伝に


なっているようだけど


自分はそこはあんまり興味ないかなあと。


それよりも、晩年のウォレス、スピリチュアルに


傾いて浮かばれなかったというのは


何となく知ってたけど


渡辺先生の本によると若い頃からの


「フレノロジー(骨相学)」


「メスメリズム(催眠術・動物磁気説)」が


発端だったようで。


今は廃れてしまったけれど、


将来どうなるかわかりませんよ。


新たな脳との連携機能とか


何かが発見されたりして。


そうなると、ウォレスさんは早すぎたって


評価になるんだろうなと。


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