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W桂子先生から”美しいリレーションシップ”を読む [’23年以前の”新旧の価値観”]


柳澤桂子―生命科学者からのおくりもの KAWADE夢ムック (KAWADE夢ムック 文藝別冊)

柳澤桂子―生命科学者からのおくりもの KAWADE夢ムック (KAWADE夢ムック 文藝別冊)

  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2001/01/01
  • メディア: ムック

ムック本を以前より持っていて

お二人の桂子先生対談は読んでいたが


中村先生単独の随筆は読み損なっており


昨夜、読んでみて打ち震えた。


昨日投稿した、加藤典洋・池田清彦先生の


対談とうまく言えないけれど思想的にではなく


”対極”にいる科学者と感じた。


加藤先生曰く「過度に純粋」なのかもしれない。


もしも世間に出ると「あおっちょろい」と


笑われてしまうのかもしれないが


本当に笑われていいものなのだろうか。


どちらをとるのかということでは


もちろん、ない。


これは相当に深く入り組んでいて簡単に


答えのようなものを出せる質のものではないだろう。


それは遺憾ながら一旦置かせていただき


中村先生の視点からみた柳澤先生というのも


貴重で発見があるけれど


それだけでは語り尽くせないものがあり


出会いの奇跡とでもいうもか


語れば語るだけ野暮で


浅学非力な我が身を認めざるを得ないのですが


愛が横溢した素晴らしい随筆だった。


頼りになる仲間、柳澤さん


中村桂子


1971年、大学時代の恩師である江上不二夫博士が、私たち弟子から見ても、えっと驚く新機軸を出され、研究所を創設された。

三菱化成生命科学研究所である。

今では何の変哲もない名前に聞こえるかもしれないが、まず、生命科学が新しい。

それまで生物研究は研究対象となる生物や現象によって縦割りになっていた。

動物学、博物学、遺伝学、発生学…いくらでもある。

それを、生命現象全般を体系的に研究し、しかもそれを人間理解につなげようというのだからすごい。

更にはそれを民間の企業と組んで…当時は、学者としてあるまじき事と批判もされた。


もう一つの新しさは、女性の研究者を積極的に採用されたことだ。

こうして、それまでの研究歴がまったく違う柳沢さんと私が仲間としての毎日を送ることになったわけだ。

当時、採用面接にあたった三菱化成の幹部は、かなり心配していたようだ。

若い仲間に妊娠中の人がいて、「出産を控えて退職しますという話はよく聞くが、大きなお腹の人の面接は初めてだ」と戸惑っていたのを思い出す。


二人共、子育て真最中。

それぞれにその特徴を生かした仕事ができたと思っている。

柳沢さんは、どうしても哺乳類の発生を始めたいと頑張った。

これまた、今ならどうということはないが、当時は、ネズミを誕生させ、それを管理するのも大変な状態だった。

しかし、見かけによらず芯の強い彼女は、主張を通し、実験や飼育の技術習得のためのアメリカ滞在まで実行した。

こうして始めた研究の素晴らしい成果は、彼女の本のいくつかに紹介されている通りだ。


恵まれた環境での望み通りの研究。

研究者として誰もが求めながらなかなか手にできない状況を、自らの能力で作りあげ順風満帆でスタートした彼女の行手には、誰が見ても素晴らしい研究生活が見えていた。

私も、研究会での柳澤さんの報告がとても楽しみだった。


ところが、何がどうなったのかわからない中で休みがちになり始め…研究者としての無念さは、他人がどうこう言えるものを超えている。

闘病生活の身体的・精神的な苦労も同じだ。


ただ、私の中にある柳澤さんは、冷静に考え、確たる自己を持つと同時に、自分の子供たちにむける眼と同じ眼を地球上の生きものすべてに向けている素晴らしい仲間という面が大きい。

生命科学は、生きものを切り刻んで、その構造や機能を調べ、あわよくばその成果でお金を儲けようとしている学問と言われかねない昨今だ。

違うんだよ。

DNAもネズミも、それと実際に接し、それを通して見えてくる生きものの姿を知ると心豊かになるんだよ


この実感をできるだけ多くの人と共有したいという気持ちをもつ仲間としての柳澤さん。

同じ”桂子”なので、時々同一人物と間違えられることもあった。

なぜかわからないが、この30年間、彼女は私より強く、長く生きる人のはずだと思い続けてきた。

今もそう思っている。


中村先生、ただ今現在2023年末も


そう思っておられるだろうな、と感じた。


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