サイエンス本から”進化論”や”種”を読む [’23年以前の”新旧の価値観”]
気になったところをピックアップ
させていただきました。
CHAPTER1 進化的に生物を見るまなざし
世界を束ねる進化の系統樹
から抜粋
茂木▼
ダーウィンが150年前に著した『種の起源』は、私たち人類にもっとも大きな影響をもたらした書籍のひとつといっていいでしょう。
その影響のひとつは今日ゲストの三中信宏さんのご専門になりますが、系統進化の考え方をもたらしたこと。
たとえば、ヒトはチンパンジーと共通の祖先から進化したとか、アザラシとイヌとはじつは近い仲間だとか、生物進化の歴史を表現した系統樹を見ることによって、現在の私たちは、その生物の本質を理解することができます。
三中▼
私の研究のひとつの目標は、ひとことで説明すると、生物の完璧な系統樹を作ることです。
そのために生物の形態や遺伝子の塩基配列など、さまざまなデータをコンピューターで解析し生物の祖先がどんな進化の経路をたどってきたかを復元することもしています。
古くからある系譜の思考 から抜粋
茂木▼
三中さんの著書に、『系統樹思考の世界』という興味深い本があります。
生物ばかりか、言語、文字、民族など、さざまなものに「系譜」があり、それを体系的に理解することの重要性を紹介しています。
三中▼
今日は、系統図をいくつか持ってきました。
この系統図は長さが2メートル以上もありますが、生物進化とは関係なくて、世界の宗教の系統を記したものです。
ダーウィンが亡くなった翌年の1883年に、スコットランド出身の宗教学者フォーロング(J.G.R.Forlong)がまとめた本『生命の川』の付録ですが、世界の宗教の根源を「樹木崇拝」「蛇(男根)崇拝」「火焔崇拝」などに分類しています。
茂木▼
ということは『種の起源』に触発されてつくられたのですか。
三中▼
というわけではありません。
「系譜」で物事を理解しようという試みは古くからあります。
作者はもともとインド滞在経験のある技術者で、キリスト教の系譜だけでなく、仏教や東南アジアの宗教などもきめ細かに記しています。
「種」はあるのか から抜粋
三中▼
文化人類学の中でも認識人類学者のように、民族集団がそれぞれどのように生物を分類しているか調べている人もいるし、認知心理学でもカテゴリー分けについては研究されています。
茂木▼
認知には普通、同じイヌでもたとえばチワワとセントバーバードだったら、チンパンジーとマーモセットと同じように別のものに見えますよね。
三中▼
でもそこでイヌのイヌ性とか、サルのサル性、というべき何らかのエッセンス(本質)が心理的には確かにある。
ただそこまでいくと哲学というか、形而上学の世界になるので、生物学者は踏み込みたがらない。
自分たちで学問の壁を作っているところがあります。
「種」は、多くの生物学者にとって非常に重要な概念であって、必死に近づこうとするのですが、近づけない。
データをもっと蓄積していけば、いずれは完全な「種」の概念が得られるはずだという人もいますが、私は無理だと思います。
茂木▼
種の概念そのものが認知的だったわけですか。
三中▼
現在でも分類学者の多くは、「属とか科とか目とか、そういう高次の分類群は人間が作ったものにすぎないが、種だけは違う、種はある」といわれます。
今でも、分類関係の学会では「これは種だ」「いや亜種だ」ということを延々と論争しています。
茂木▼
亜種というのは、生物学的な定義はできるんですか。
三中▼
いえ、何しろ「種」自体が定義できませんからね。
私がよく言うのは、「種というのは幻想です。亜種に至っては妄想です」と(笑)。
茂木▼
種というものの存在が認知的だといわれると、経験的には納得します。
私は子どもの頃からチョウが好きで、日本のチョウについては認知的なカテゴリー化ができていると思っていたのですが、昨年、コスタリカに行って驚きました。
まったく区別できない。
とくにドクチョウとトンボマダラなんて、模様も飛び方もすごく似ている。
種の概念というのは、自分の中でいったんできてしまうと確固たるものだと思っていますが、新しい土地に行ったりすると簡単に揺らぎますね。
三中▼
ある土地で生きている限り、種の概念はわりとかっちりしたものだと思いますが、世界中あちこちの地域からいろんなコレクションが集まってくると、もうがたがたになってくる。
極端なことをいうと、種はなくていい。必要なのは個体であり、カテゴリーの名称はどうでもいい、などというと、大多数の同業者から非難の嵐ですが(笑)。
茂木▼
お話をうかがうと、分類学の根底には認知学的な基礎がある。
つまり、メタ認知の問題というか、枠組み問題ですね。
そういう問題について考え、整合性をつけようという問題意識が日本では希薄なのかもしれません。
茂木先生、前回投稿した
コスタリカの旅での知見も記されていた。
同タイミングで読んだのは
まったくの偶然だったのだけど。
”種”というのは何なのだろう、謎は深まるばかり。
話変わってこの対談相手の三中先生は
この書の"編者"をご担当されておられ
”まえがき”も書かれているのだけども
その直後に記されていた”ブックリスト”が
掲載されていたので、興味深かったので
以下にメモさせていただきます。
▼進化生物学のいまを知るための文献リスト
新たに訳されたことによりこの古典はとても読みやすくなった。
- 出版社/メーカー: 工作舎
- 発売日: 1999/09/01
- メディア: 単行本
エイドリアン・デズモンド/ジェイムズ・ムーア 著
渡辺政隆訳 1999年
詳細に描き出されたダーウィン伝。19世紀当時イングランドの社会の中で形作られる進化学の祖。
カール・ジンマー
『「進化」大全ーーーダーウィン思想:史上最大の科学革命』
渡辺正隆訳 2004年
ダーウィンの進化思想が現代にどのように継承されたかをヴィジュアルに伝える。
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2012/05/30
- メディア: 単行本
カール・ジンマー『進化ーーー生命のたどる道』長谷川眞里子日本語監修 2012年最新版の総説書。多数のカラー図版と写真で進化学を語り尽くす。
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2006/08/31
- メディア: 単行本
リチャード・ドーキンス
『祖先の物語(上・下)』
垂水雄二訳 2006年
生命の樹をヒトから祖先へとさかのぼる旅路を多くの写真と図表とともに案内する進化ガイドブック。
- 出版社/メーカー: 日本放送出版協会
- 発売日: 2023/07/04
- メディア: 単行本
ディビッド・スローン・ウィルソン
『みんなの進化論』
中尾ゆかり訳 2009年
一般人にとって現代進化学とは何かを多くの具体例とともに語りかける。
ジェリー・A・コイン
『進化のなぜを解明する』
塩原通緒訳 2010年
進化学がこれまで取り組んできた数多くのトピックスを解説する。
ウリカ・セーゲルストローレ
『社会生物学論争史ーーー誰もが真理を擁護していた(1、2)』
垂水雄二訳 2005年
社会生物学は現代進化学史を彩るある論争の火種となった。
中尾央/三中信宏編著『文化系統学への招待ーーー文化の進化パターンを探る』
2012年
進化思考が生物学だけでなく人文・社会科学にも浸透している一つの例として。
日本進化学会編『進化学辞典』
2012年
現代進化学のすべてを俯瞰するために編まれた「読む事典」。
さらに掲載されていた外国の
学者さんの論文に呼応する形で
歴史表があって編集者作のものなのか、
誰の作なのか不明だが興味深くて、メモ。
▼進化論の歴史
進化という概念は古く、古代にまでさかのぼる。
歴史は絶え間ない変化の記録だが、ここではその中でもカギとなる出来事を挙げる。
▼紀元前610〜546年
ギリシャの哲学者アナクシマンドロス(Anaximandros)が、すべての生命体は海に生息する魚から進化し、陸地に上がった後は変異プロセスを重ねてきたとする説を提唱。
▼1735年
リンネ(Carl Linnaeus)が『自然の体系』の初版を出版、分類学の基礎を築く。
後に、植物は共通の祖先から枝分かれしたと提唱。
▼1809年
ダーウィンが英国シュールズベリーの裕福な家庭に生まれる。
▼1830年
ライエルが『地質学原理』を出版。
同書に影響を受けたダーウィンは、グランドキャニオンで見られるように、自然界のプロセスは徐々に進むと考えるようになった。
▼1831年
ダーウィンが5年間にわたる「ビーグル号・世界一周の旅」へ出発。
▼1838年
ダーウィンが自然選択説を理論にまとめるが、この理論は20年以上も出版されなかった。
▼1859年
『種の起源』が出版と同時に売り切れる。
▼1865年
修道士メンデルが遺伝に関する研究をまとめた本を出版。
だが、彼の仕事の重要性は35年間認められなかった。
▼1871年
ダーウィンは著書『人間の由来』で人間のルーツが霊長類にあるとし、一部で激しい批判が巻き起こる。
彼の顔を用いた風刺画も出現。
▼1882年
ダーウィン死去。
▼1925年
テネシー州のスコープス裁判(通称モンキー裁判)で、進化論を教えていた教師が、神の創造を否定する理論を教えることを禁止する法に基づいて有罪になる。
▼1936〜1947年
ダーウィンの進化論とメンデルの遺伝の法則が統合される。
▼1953年
ワトソン(James.D.Watson)とクリック(Francis Click)がDNAの構造を発見。
進化分子生物学の研究が可能になった。
▼2000年代中頃
遺伝子解析により比較的最近(数千年前まで)の人間の進化の証拠が示される。
▼2009年
ダーウィンの誕生日2月12日は彼を記念してダーウィン・デーとなっており、少なくとも10カ国で数多くの記念イベントが開催される。
最新情報は、https://darwinday.org/で得られる。
なぜか興味深い、ダーウィンとその周辺。
それはなぜかと”問い”を立ててみると
自分が読んでいる学者さんたちの
多くの方達が浅からぬ興味を持っている
ってことが端を発しているのが大きいが
実際に自分もいくつか読んでみて
面白いと思えなければ読まないわけで。
とあまり生産的でないことを考える時間は
ただいま現在を生きる人間にとって
哀しいかな有益ではない為、
いったん置いといて直近の課題を考え
読んでいない本が山積しているのに
あらたにブックオフで8冊も買ってしまって
いつ読むのだろうなあーと思いつつ
そろそろ夕飯の手伝いを考え始めている
休日のとある1日でございました。