奥本大三郎先生から先生達の”魅力”を考察 [新旧の価値観(仕事以上の仕事)]
奥本先生の書や類書を読んでみた。
養老先生経由で何冊か読んでもいたし
『100分で名著』にも出演されてたから
なんとなくのキャラクターは存じ上げていたが
ピンポイントで読むのもなかなか滋味深いもので。
話の節々に、書からの引用や経験からくる
知の膨大さが横溢していて目が眩みます。
虫を愛でる日本人の自然観
江戸時代に変化した日本人の感性
から抜粋
養老▼
人間はやたらに移動しますが、虫はローカルですよね。
ただ、虫によって差があるのが不思議です。
カナダには虫が全然いなかった。
ようやく甲虫が飛んできたら、どこにでもいるツマグロカミキリモドキで。
奥本▼
ああいうコスモポリタンでは、大抵つまらない顔をしていますね。
北米大陸は食物もおいしそうな感じがしない。
単調な自然の中に住むと人間は食物に興味をもたなくなるんじゃないですか。
それと虫に関心がないことはつながるような気がするんですが。
我田引水ですかね(笑)。
養老▼
でも、イギリス人は…。
奥本▼
食物に興味はないけれど、虫好きは多いですね。
養老▼
でしょう。
ただ、アングロサクソンは具体的な事物に興味を持つ性向がある。
だからアメリカやオーストラリアでも平気で暮らせる。
日本人はダメです。
世間がないと不安で仕方ない。
奥本▼
日本人は孤独に弱いから。
養老▼
西洋人は、虫に対しても孤独な関心が強いようですね。
ベイツがアマゾンに7年間いたけれど、日本人だったら必ず人間味のあるものを求め始めるでしょう。
奥本▼
日本人は中国やフランス文学にも、日本風の”花鳥風月”を求めます。
例えばルナール。
彼の『博物誌』を日本人は誤解して読んでいますね。
人情話も同様です。
フランダースの犬とか。
あれは明治時代の貧乏苦労話なので、少年講談のネタと同じですよ。
養老▼
その感性は江戸時代から始まっている。
『安寿と厨子王』にしても本来は復讐譚です。
奥本▼
森鴎外の『山椒太夫』がそうですね。
養老▼
鴎外は江戸化されていますからね。
奥本▼
”地球にやさしい”式の言い換えと同じだったりして(笑)。
養老▼
「日本人の感性は伝統的だ」というのは嘘で、中世までは厳しいんですよ。
相手の首を切って持ってくるんですから。
江戸の人にはできません。
そんなことをするくらいなら自分が腹を切るって言うかもしれない(笑)。
奥本▼
『イソップ物語』のセミとアリの話は、日本ではセミがキリギリスになっています。
最後にアリはかわいそうなキリギリスさんに救いの手を差し伸べますが、このように結末を変えているのは世界中で日本だけです。
他国の人は「それじゃ教訓にならない」と言います。
”世間”や”日本”の捉え方が深すぎます。
全てを肯定するものではないにせよ
大部分に頷けるところがございます。
お二人は限りなく価値観が近いような気が
するっていやあ、生意気でございますが
そんな気がするんでございます。
さらに奥本先生主導の対談を拝読してみた。
それぞれに興味深い。
時々出るウィットで洒脱なジョークが
すごく面白いし、レベルが高い。
何のレベルなのかよくわからないけれど。
”あとがき”もユニークで言葉は空気の振動
ってのも養老先生と同じことを仰ってて
高度な知性を持っている人って
基礎情報が同じなのだなあと思ったり。
YouTubeでファーブルの資料館開館間もない頃
の日垣隆先生のラジオ出演や、
生命誌研究館館長の永田和宏先生との対談
も興味く拝見させていただきました。
さらに近刊のこの書も面白くないわけがない。
本当に興味深い内容で
何度も読める良書。
参考図書の写真も含まれてて
価格も今時の書にしては安い。
奥本先生、ファーブルの資料館を運営されているなら
もっとプロモーション色を出しても
いいのでは?とは余計なお世話で
こういうところも世間ズレしていない
売らんかなの姿勢が薄いという意味でなんですが
悪い意味での日本風の忖度を感じさせない所が
先生たちの魅力のひとつなのだろうなあと
台風の関東地方、買い物帰りずぶ濡れの
休日でございました。