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3冊のマクリントック関連から”透明な心”を考察 [新旧の価値観(仕事以上の仕事)]

ノーベル賞学者 バーバラ・マクリントックの生涯 ―動く遺伝子の発見―


ノーベル賞学者 バーバラ・マクリントックの生涯 ―動く遺伝子の発見―

  • 出版社/メーカー: 養賢堂
  • 発売日: 2016/08/25
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

まえがき から抜粋


本書では遺伝学者バーバラ・マクリントックを紹介する。

彼女のトウモロコシを使った遺伝実験は、遺伝子工学や抗生物質に対する細菌の耐性の獲得など最先端の科学技術の研究に貢献しており、今日に至るまで高い評価を受けている。


マクリントックは自分が選んだ世界に決然として臨み、一生を捧げた。

難問はいつしかやりがいとなり、彼女を虜にしたのであった。

そして、次第にドラマチックな発見と達成の物語を作り上げていった。


しかしその裏には常に「科学は女の仕事ではない」という当時の社会環境があった。


訳者あとがき から抜粋


マサチューセッツ工科大学(以下、MIT)の生物学部の教授であったナンシー・ホプキンスが、生前のマクリントックとかわした”Women  is science(科学における女性)”に関する会話が載っている。

(投稿の日付は2006年1月23日、マクリントックの没後14年ほどのことである。)

ホプキンスによれば、彼女が大学院生、マクリントックが70代の時(おそらく1970年代初頭〜半ば)に、二人はコールド・スプリング・ハーバー研究所で出会ったのだが、彼女(マクリントック)が生きてきた時代が如何に女性研究者にとってつらい時代であったか、男性研究者ばかりの中で正当に自分の研究の場を確保すること、職を得ることがどれほど困難であったか、等などの思いを披瀝したのである。


一方、まだ元気溌剌、若いホプキンスは、生物学者としての自分の将来にバラ色の夢を描いており、そのような辛い経験は自分の人生に起きるはずもないと考えていたので、できることならそんな苦労話は聞きたくない気分になったようである。


数年後ホプキンスが学位をとり、博士研究員も終えて、いよいよMITに助教として職を得る運びになったとき、マクリントックがホプキンスに言った言葉は

Don’t go to university,Nancy.The discrimination is so terrible,you will never survive it ”(ナンシー、あなた、大学に就職しない方がいいわ。差別がとてもひどいから、あなたが生き残れるとは到底思えない)というものであった。


そしてその後、さらに年月を経て、ホプキンスは生物学者として人生を歩むうちに、大学院生当時にマクリントックの気持ちをよく理解しなかったことに対して申し訳なかったと思うようになった。

同時に、彼女をより理解できるようになったとも述べている。


若い頃は、お年を召した方の苦労譚や


人生訓は今を生きる自分の時代には


さほど関連してないよというのは


自分に置き換えてもそうだったし


昨今若者との会話の中でも、


意識的ではないにせよ言わないように


している気がする。


つまり、ホプキンス女史の言っていることは


身につまされるエピソードでして、


後年すまない気持ちになるところも同様で。


それは経験値なんかのなせる技で


若い時には見えないものなんだろうという


歳をとったことの現れなのでしょうな。


ところで敬愛する養老先生は、


マクリントックというと中村桂子先生を


思い出すと桂子先生本の解説で


おっしゃっていたな。


この評伝本にはそのバイブレーションが


かなり満ち溢れている。


女性科学者、研究、挑戦、熱量、


ファクトを積み上げるなど。


ここまで闘争的や厭世的ではないにせよ。


ホプキンス女史曰くマクリントックは


「世捨て人」だったとここに書いてあった。


(それが悪いってわけではないですよ


「だけど人を愛していた」みたいに書いてあるし)


さらに養老先生は茂木さんとの対談で


このように評しておられた。


Dream HEART vol.275 養老孟司さん


  - レポート - Dream Heart(ドリームハート)


  - 茂木健一郎


  - TOKYO FM 80.0MHz
  (2018年07月07日
)
から抜粋


養老:

バーバラ・マクリントックという女性の科学者の方がいるんですけど、あの人も、子供の時からものすごい集中力の持ち主なんですよ。

物事に集中すると考えるし、スポーツなんかでも集中力のある人が強いでしょ。

集中力を身につけるようにするということ。

もしかすると良い人生を送るための大事なことかもしれないですね。


周りが見えなくなる、てのはよく聞くし


自分もそのゾーンに入ることはたまにあるが


それそのものになる、っていう激しさや熱量を


キープできるってのはすごいなあと思う。


それはこの書を読むと時代背景もあろうかと思うが


単純にピュアな研究資質がそうさせたって


わけではなくてキャリアを阻むような


水面下での熾烈な闘いなどがあったようで、


人生一筋縄ではいかないモンだなあ、と


思わざるを得ないのでございます。



ウイルスは「動く遺伝子」

ウイルスは「動く遺伝子」

  • 作者: 中村 桂子
  • 出版社/メーカー: エクスナレッジ
  • 発売日: 2024/05/02
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

第3章 動く遺伝子はウィルスだけではない


トウモロコシで見つけた動く遺伝子「トランスポゾン」


から抜粋


6年間、トウモロコシの遺伝子を観察した結果、生殖細胞が生まれる減数分裂の際に、遺伝子が染色体の中を移動していると考えなければ、この現象を説明できないということに気付きます。

1951年、マクリントックはシンポジウムで、本来はACという遺伝子が一個あるトウモロコシの位置が動いたという考え方を発表しました。

遺伝子の位置が動く、つまりトランスポジション(Transposition)があるというのです。

その時、会場内は「石のような沈黙」が広がったと言われています。


当時は、遺伝子は単純に複製されていくと考えられていたので、染色体の中で遺伝子が位置を変えたと言っている彼女の論文は奇想天外なものでした。

誰も理解することができなかったのです。


その後、分子生物学の技術が発展し、遺伝子をDNAとして解析できるようになりました。

その結果、ショウジョウバエの実験などで、遺伝子が動くことが分かってきたのです。

このような遺伝子をトランスポゾン(Transposon)と呼びます。


1983年、トランスポゾンの発見により、バーバラ・マクリントックは81歳で、ノーベル生理学・医学賞を受賞しました。

受賞の報告を受けた彼女は、「あらまあ」と一言、いつものように、トウモロコシ畑へ出ていったというエピソードが、私は好きです。


一つの細胞の染色体の中で、位置を移す一塊の遺伝子、つまり動く遺伝子トランスポゾンは、トウモロコシだけ出なく、さまざまな生きものの細胞に存在する一般的なものと分かり、「遺伝子は動く」ということが、研究者の頭の中に入りました。

皆さんの頭の中でも、ダイナミックな遺伝子像ができあがりますようにと願っています。


”トランスポゾン”ということだと


過日投稿したO・サックス博士の書にも


「動く遺伝子」というマクリントック博士に


触れる箇所がありましたことを思い出した。


「動く」というか「移動」なのだね。


だから「動く」なのか。


それにしても欲やビジネスに目が眩まない


透徹した心をお持ちな方同士の


邂逅という気がしてならない


夜勤明け、休日の早朝でございました。


 


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