水木先生は下品なことも平気で口にされるけど


実は底知れぬ知性に支えられている


苦労人だというのは周知の事実。


いまさら言うに及ばずなのだけど


昨今の自分のテーマとリンクするところも


ありやなしやという感じでして。





ゲゲゲのゲーテ (双葉新書)



  • 作者: 水木しげる

  • 出版社/メーカー: 双葉社

  • 発売日: 2016/04/08

  • メディア: Kindle版




水木しげるインタビュー

「ゲーテはひとまわり人間が大きいから、読むと自分も大きくなった気がするんです」


水木サンの80パーセントがゲーテです から抜粋


はじめてゲーテに触れた音はいつ頃ですか。



水木▼


手に取ったのは10代の終わり頃です。


よく読んだのは、20代、30代。


それ以降はあまり読んでいない。


二十歳に近づき、戦争も厳しくなってきて、いつ招集になるかもしれなくなった。


それまでは哲学なんてものとは無縁に生きてきたわけだけど、死の恐怖を克服するために、どうしても読むようになりました。



哲学書は、ゲーテ以外には誰の著作を読まれましたか。



水木▼


いろんな本を読みましたけどね。


カントだとかヘーゲル、ニーチェ、ショーペンハウエルだとかも、良さそうなので読みましたけど、やっぱりゲーテは全体的に大きくて、頼りになるって感じでしたね。


カントとかヘーゲルは学者ですし、あんまりね。


ゲーテは(ワイマール公国の)宰相ですし、人間として大きいですよ。


普通の人間よりひとまわり大きい。



それで、なによりもまずゲーテに学ぶべきだと考えたわけですね。



水木▼


ゲーテはひとまわり人間が大きいから、読んでいると自然に自分も大きくなった気がするんです。



数年前からニーチェがブームになって読まれていますが、ニーチェ哲学はどう思いますか。



水木▼


他の連中は思考して、考えたことを吐露するという感じだけれど、ゲーテの場合は人生とか、人間とか、全てを含んだ発言なんです。


幅が広いから参考になるわけですよ。


そこへいくとニーチェなんかは特別なときの言葉が多かったように思いますね。



ニーチェはゲーテのファンだったから、ゲーテ哲学に大きな影響を受けているのではないでしょうか。



水木▼


そうでもないです。


ゲーテは人生をじっくりと味わった言葉ですよねえ。


ショーペンハウエルやニーチェとかは、ケンカ腰で喋るような感じで(共感できなかった)ね。


日本ではニーチェ的な考え方はあまり上手くいかないのと違いますか。


ニーチェというのは他人に勝たなければいかんという苦しい考え方をして、大騒ぎをしているからねえ。



他人に勝つ必要はないですか。



水木▼


他人と比べるから不平不満を感じるわけですよ。


本人が納得して満足すればそれが幸せってことになるんじゃないですか。


出世して自分だけいい思いをしようと思ったら、ニーチェの思考ですよ。


水木サン(水木は自分のことをこう呼ぶ)にとって、ニーチェは怖いね。



ゲーテの著作は全て読まれたのですか。



水木▼


ほとんど読んだねえ。


ファウスト』や『イタリー紀行』なんかも何回も繰り返し読んだけど、最も愛読したのはエッカーマンが書いた『ゲーテとの対話』です。


水木サンはゲーテの作品よりも、ゲーテ本人に興味があるんです。


だから、『ゲーテとの対話』を何回も読んで、ゲーテの言葉を暗誦してましたよ。



世の中の99パーセントは馬鹿です。 から抜粋


ゲーテは「芸樹には、すべてを通じて、血統というものがある」といっていますが、水木先生の妖怪画は鳥山石燕(せきえん)などに立脚して、よりグラフィカルな具体性を提示しているように見えるのですが。



水木▼


そうそうそう。


石燕は参考にしました。


あれは立派なもんです。


日本の妖怪に関しては石燕の妖怪画が基準になってるんじゃないですか。


石燕は尊敬できますよ。


ノーベル賞なんかをもらうべきです。


妖怪は伝承があるから、創作しちゃいかんのです。


妖怪は感じるものです。


で、感じるものは世界共通です。


日本人があっと驚くものを、エスキモーの人もやはり同じように感じる。


妖怪というのは空白に見えて、実はそこに居るんです。



漫画を描く上で、つきあっていて影響を受けたり、参考になったりした人物は居ましたか。



水木▼


居るにはいましたが、それほどでもないねえ。


99パーセントは馬鹿だから、話せる人は百人に一人ですよ。



性に合わない人間ともつきあうべきだ、というようなことをゲーテはいっていますが、水木先生もそんな人たちともつきあってきましたか。



水木▼


馬鹿な編集者が来てもマネーのためにOKして、向こうがいっていることを理解してやるわけですよ。



馬鹿な編集者が多かったですか。



水木▼


多いんじゃないですか、給料をもらっている人間の多くは餓死する心配がないから、あまり努力はしないし、自分を解放する技術というものがない。


編集者に限らず、サラリーマンの8−9割が馬鹿なんじゃないですか。



ではそういう馬鹿は、どうやって生きていけばいいのでしょう。



水木▼


自分を理解することが大事ですよ。


自分のことを正しくみられない人っていうのは勘も鈍いし、成功や幸せとは縁遠い。


水木サンのように、ゲーテを暗記するまで読むことはいいことです。



知識ではなく教養を身につけないといけないわけですね。



水木▼


そうすれば水木サンのように頭が進みますよ。


勘が鈍くて馬鹿なグループからひとりでも脱出できれば、世の中が良い方向に進むんじゃないですか(笑)。



ゲーテの言葉【死について】



私が人生の終焉まで休みことなく活動して、


私の精神が現在の生存の形式では


もはやもちこたえられないときには、


自然はかならず私に別の生存の形式を


与えてくれる筈だ


『ゲーテとの対話 中巻64ページ』




ゲーテはあの世の存在を信じ、死後もなんらかのカタチで魂は継続すると考えていましたが、私も同感です。


世界のあちこちの「あの世」について調べたことがありますが、考え方はさまざまです。


思うに、死後、カタチがなくなるのではなく、カタチが変化するのだと私は思っています。


人間の目には見えないカタチに変化する。


それが神様なのか妖怪なのかはなんともいえない。


ふわふわっとしたものだと想像しています。



ゲーテと水木先生という組み合わせは


フィットしている気がするのは気のせいか。


いうほどゲーテを知っているわけではないが


養老先生がちらっと仰っていて気になった。


余談だけど、その流れで


ゲーテの『ファウスト』に興味があるが


どうしても読める気がしない。


まずは外堀を埋めて、時が来たら読もうかと。


来るのか分かりませんが。





方丈記 (小学館文庫―マンガ古典文学)



  • 作者: しげる, 水木

  • 出版社/メーカー: 小学館

  • 発売日: 2019/04/05

  • メディア: 文庫





第13章『方丈記』成る


のセリフから抜粋



建暦2(1212)年3月


『方丈記』成る。


鴨長明58歳であった。


『方丈記』は”無常”すなわち、あきらめの心情に最初から貫かれている。


水木サンは若い頃…出征する前に『方丈記』を読んで、大いに共感を覚えた。


死に行く者はあきらめの境地にならなければならなかったのだ。


しかし今の時代、すべてを容認してあきらめずに困難に立ち向かう姿勢こそが大事なのかもしれない。




その頃の長明は、『無名抄』や『発心集』を記している。


『無名抄』を読むと、ある種の郷愁のようなものが感じられるね。


また、「発心集』の仏教説話なんかは、長明の感じる”無常”の心が反映されているのだろう。




長明が死んだのは建保4(1216)年閨6月10日という。


享年62歳であった。




世を恨んで出家した長明の心には、都を捨てたと言いつつも、都の生活を惜しんでやまない気持ちがあったと思う。


最後は、方丈の庵で人知れずひっそりと死んでいったのだろうな。




長明の”無常感”は、若い頃の災害や挫折の経験が大きかったのだろう。


21世紀の現在でも、大いなる災害などの問題を抱えている…


この閉塞感は『方丈記』で語られる”無常”と無縁ではないだろう。



この書はコロナ禍の最初期に深く読んだ。


”方丈記”と”鴨長明の人生”は切ってもきれない事が


とてもよく分かり興味深く拝読。


水木先生とは若干解釈が異なるのだけど


それは、長明さんはさほど世を恨んで


いなかったのではないかという点で。


もっとドライに自己の境遇を捉えていての


”無常感”なのではなかろうかという所でして。


一旦それは置いておいてこの書は


かなり忘れ難い一冊でございます。





ゲゲゲの娘日記 (角川文庫)



  • 作者: 水木 悦子

  • 出版社/メーカー: KADOKAWA

  • 発売日: 2022/06/10

  • メディア: 文庫





ゲーテの母国ドイツへ家族で行ったり


遠野物語の柳田國男の連載を開始とか、


水木先生の知的好奇心の深さを窺い知ることができる。


そんな水木先生を支えたのは家族だったという。


父と家族 から抜粋



父は家族が大好き。


家族と一緒にいるのは父にとって心安らぐ時間だった。


晩年は特にそれを感じた。


いつも父の隣には母。


母と一緒にいるときの父は、本当に幸せそうだった。


一緒にテレビを見ていて不意に母の頬をつまんでみたり、わざと変顔を近づけて母に怒られたり。


子供みたいにはしゃいで、母と一緒にいることが心から嬉しいようだった。



赤貧洗うが如しの人生を間近にご覧になっていた


ご家族の貴重な証言で奥様の書は有名だけれど


自分と同年代の娘さんの視点での書は


同時代の空気が漏れ伝わり読みやすかった。


あの時代に”漫画家”なぞやっていたら


さぞや大変だったろうなあと


ご苦労が偲ばれるものの


自分も本日は朝4時台から起きて仕事のため


そろそろ頭がスリープ状態になってきたことを


ご報告させていただきます。