舛添要一の先見対談―時代を創る11人のキーパーソン



  • 出版社/メーカー: コア出版

  • 発売日: 1992/09/28

  • メディア: 単行本





地球はなぜ”地球”なのか?



松井孝典


東京大学理学部助教授


1946年生まれ。東京大学理学部、同大学院修了。


現在、東京大学理学部助教授、惑星科学専攻。




舛添▼


今年は環境問題が流行で、ブラジルで国連主導の地球サミットが開催され、大変話題になっていますけど、そもそも地球環境問題とは何なのか。


例えば炭酸ガスによる温室効果とか酸性雨の問題など、地球を専門に研究なさっている立場から見て、環境破壊の問題は何であるのか。


誤解している面もあるんではないかと思いますので、ざっくばらんにお伺いしたいと思います。




松井▼


地球環境問題というと、何となく地球が危ないとか、地球にやさしいとか出てくるでしょう。


この言い方はおかしい気がしますね。


地球環境はおそらく、人類がいなくなればすぐにもとに戻るんですよ。


別の惑星みたいになってしまって、生物が住めなくなるようなことは、今のところ考えられない。


そういう意味では地球環境というのは安定なんです。


何が問題かというと、人間がその環境の中でいかに生きていくかという意味の環境、つまり人間環境問題というべきなんです。




舛添▼


単純にいうと54億いる人間が30億に減れば、問題は解決するということですか?




松井▼


そうですね。


例えば、今のわれわれみたいな人間というのがなぜ存在するのかといいますと、一万年くらい前に人類は農耕牧畜を始めたわけですよ。


地球を利用することで自ら繁栄する、豊かになるという道なんですよね。


そういう道を選択したわけです。


その前、何百万年間人類というのは生きていたんですが、それは本当に地球にやさしく暮らしていた。


地球の物質循環の閉じた形のなかで、人間も含めて生きていたんですね。


ところが、一万年ほど前に農耕牧畜を始めるということは、自然の生態系の代わりに、自分たちに都合のいい生態系を導入し創り出した。これはもう人工なんですよ。


その時から地球というものを食いつぶすことで、自らが豊かになるという存在になったわけです。


それ以前は地球の人口なんて、おそらく上限として一千万人くらいですよ。


それが、地球を利用するということを始めたから人口が増え始めて、今現在54億の人がいるわけでしょう。




舛添▼


その人口が2020年には80億とか、2050年には100億を超えるといわれていますけれど、昔は戦争があったりペストがあったりして、まあ今はエイズはありますけれども、自動的に人口調整機能ができていた。


それから変な話ですけれども、間引きなんてことでも誰も文句をいわなかった。今は人権思想がありますから。一方で人口が増えていうことを前提にした上で対策を立てざるをえないんでしょう。




松井▼


だから今、本当に環境問題を議論しようと思うんであれば、21世紀には確実に100億の人が地球上に住むわけですよ。みんな豊かに暮らしたいでしょう。


100億の人が豊かに暮らす地球というのは、どういう地球なのかということを考えなければいけない。その中で、環境というのはどうあるべきかと。


ところが環境というものがあって、これは変えちゃいけないんだと。なおかつ人間が、100億の人たちが豊かに暮らすなんて無理です。答えがないわけですよ。


だからそういう意味では、今いっている議論のほとんどがおかしい議論をしているわけです。




舛添▼


地球サミットもあまり役にたたないというわけですか。




松井▼


だって、地球って何かを知らない人が、地球環境問題を議論しているわけですよ。




舛添▼


ただ普通の人の感覚でいって、工場がどんどん煤煙をまき散らして、それで森林が枯れていく。


そこで酸性雨対策をやるというのはいいんですか。




松井▼


それは当然やるべきですね。だから地球環境といった時に、全部いっしょにして地球環境というから、おかしくなってしまうんです。


地球環境といった時に、例えば地球のように海が存在する惑星、その海が存在するという条件、こういう環境は変えたら困るし、変わらなかったんですよね。


では大気の成分についてはどうなのかといったら、地球の歴史を観てもわかるように、これは大きく変わっているわけですよ。




舛添▼


オゾンホールが南極で発見されるというような、フロンガスのオゾン層破壊の問題がいわれていますが、フロンガスは止めないといけないですか?




松井▼


これは温暖化の問題とかいろんな問題がありますけれども、僕は人間にとって脅威なのは、フロンガスのオゾン層破壊ということが、一番の問題だと思う。




舛添▼


それは大気の成分が変わるということですか?




松井▼


紫外線が入ってきてしまいますからね。


紫外線というのは生きてく上でものすごく短期的に、例えば今から20年後とか30年後にどうなるという話ですね。これは大変な問題で、手を打たなければいけない。


じゃあ、特定フロンの生産を止めたらそれで済むかというと、そういう問題じゃないんですよね。


というのは、また新たな特定フロンに変わるものを開発するわけですよ。


それは、今の知識では何にも環境に影響はないと思っているけど、歴史を見てみればわかりますが、フロンだって最初は人類が発明した人工物質で、これほど無害で安全なものはなかったといわれたぐらいですよ。




舛添▼


スプレーに使ったり、クッションに使ったりね。




松井▼


ところが今の知識でいくと、それが溜まって成層圏まで上ってくると、いろんな連鎖反応を起こして、オゾン層を破壊しているということがわかってきたわけです。


われわれの知識が増えていくと、われわれが生きていくうえで必ず出る廃棄物があるわけですよね。人工物質を作り出すだとか、そういうものが地球の物質循環の中に入ったら、どういう影響が出るということを議論できるほど、われわれは地球のことを知らないんですよ。


今の時点で安全だからといって、それで問題が済むかというとそうではない。




舛添▼


例えば炭酸ガスの温室効果、温暖化してると、極端に言えば北極と南極の氷が溶けて、水面下に沈む土地がある。ということは、やはり問題じゃないですか。


今、CO2対策というのを地球サミットでもそうですが、環境税作るとか、炭酸ガス、化石燃料などの使用料を国ごとの限界を設けて制限する、そういう政策をとろうとしているんですが、その点はいかがですか?




松井▼


やるにこしたことはないんですが、さっきいったように、われわれが豊かに暮らしていきたい。


いろんなライフスタイルを議論しないで、そういうことだけ議論していくと、答えはないと思うんです。


環境税にしても何にしても、では経済というものが、本当に発展できるのかというようないろんな問題があるわけでしょう。


もうちょっと問題を変えて、どういう問題が温暖化の問題なのか考えてみると、今おっしゃったように、地球が暖かくなって水面がどんどん上がってくるということですが、これはもし地球上に国境がなかったら、人類にとってどうかと考えると、それほど悪いことではないはずです。




舛添▼


逃げて行けばいい。高いところへ。




松井▼


そう、その海岸沿いの所からまた新たな所へ移る。


あるいは、温暖化すると、今寒冷で人が住めないような冷たいところが暖かくなるわけですね。


高地が増える。


もし国境というものがなかったことを考えたら、温暖化するということはさほど問題ではないはずなんです、人類にとって。


むしろ地球の歴史をみたら、そういう時代はいくらでもあって、その時代は生命というものが繁栄しているわけですよ。


何が問題かというと、温暖化の問題というのは、この地球上の大陸の上の国境という見えない線で区切って、われわれが生きているというライフスタイルが問題なんですよ。




舛添▼


むしろ政治の問題なんですね。




松井▼


政治の問題なんですよ。


だからそれは、無尽蔵にいろんな環境を変えるようなことをやればいいといっているわけじゃないですよ。


しかし、われわれが自分の生活水準を下げて満足できるのかといったら、それはそうじゃないでしょう。




舛添▼


豊かな生活と環境の保護をどうやって両立させるかと。



水が存在するからこそ「地球」から抜粋



舛添▼


地球を知らないやつは地球のことを語るな、ということをおっしゃったんですが、なぜ地球は地球なのかということなんですが。


例えば他の星と比べてみて、どうお考えですか?




松井▼


地球というのはご存知のように、海があって大陸があって、それで水蒸気の雲があるわけですね。


金星は一面雲に覆われている。


この雲はどういう雲かというと水蒸気の雲じゃないんです。これは硫酸の雲なんです。




舛添▼


水はないんですか?




松井▼


水は全くないんです。大気中にごく微量、ほんのわずかあるだけで、地表には全く水はないし、そもそも地表の温度が摂氏でいったら500度近い。




舛添▼


絶対に生物は住めない。




松井▼


さっき温暖化という話が出ましたけど、なぜそんなに熱いかというと大気がCO2でできている。


CO2が非常に多くなると、地球だってこうなるんですよね。


極端な暴論をいえば地球がいずれこうなると。




舛添▼


金星になると。




松井▼


地球の未来はね。




舛添▼


ここで金星までのまとめをいうと、とにかく地球というのは水があるということが、金星と比べた時の大きな違いということですね。


次は火星は地球とどこが違うかということと絡めながら、地球は人間が住める奇跡の惑星だということの理由を説明していただきたいと思います。


地球が地球であるための条件ということを考えたいんですが、とにかく地球のことを知らないと、環境も何も語れないということなので、最初に金星と比べていただいて、金星には水がないということがわかりました。それでは火星と地球と比べて、今度は何が違うんでしょうか?




松井▼


火星は地球と同じように両方あるんです。




舛添▼


水と二酸化炭素とですか。そうすると人類が住める可能性があるわけですか?




松井▼


水があって、二酸化炭素があって、そこに太陽がふりそそいで、そこで生命というのが存在しているわけね。


そういう意味では、条件的には火星もうまくやれば生命が存在できるはずなんです。




舛添▼


いつも松井さんは、火星はいまから有望だと、ここにきっと生命が生まれる可能性があるとおっしゃってますよね。




松井▼


これはどういう理由かというと、火星もかつて地球と同じように温暖で雨が降って、水が溜まっているところがあって、そういう時期があった証拠がたくさん残されているんですよ。


ということは、地球上で生命が発生したんなら、火星上だって生命が発生したっておかしくないわけです。


そうすると今、地球の生命の起源なんて何も実証できないけど、火星に行って最初の生命みたいなものが化石であったりしたら、これ生命の起源を解く上でものすごく重要でしょ。




舛添▼


松井さんの惑星に関する理論ですけれども、とにかく地球物理学でノーベル賞を取るとすると、次は松井さんだといわれているくらいなんですが、普通の人にわかるようなかたちで松井理論のユニークさ、今までと違う考え方はこれだとか、ちょっとわかりやすく説明していただけますか。




松井▼


それはまさにね、地球がどうして地球なのかというと、海が存在する。


水惑星だということです。




舛添▼


水と炭酸ガスでしたっけ。




松井▼


炭酸ガスはともかくとして、海がなかったら地球にならないんです。


地球にならないという意味は、われわれも含めてすべての生命は海の中で生まれたわけで、海がどうして存在し得たのかということが重要なんですね。


海がどうやって生まれて、どうして維持されているのかということを考えるということは、非常に重要な問題なんだけど、これは今まで全く理論がなかったわけ。


それをどう考えたらいいかという考え方の枠組みを提示して、実際にこうじゃないかという理論を示す。


その詳細を言い出すと限りがないので省きますが、そういうことをやったわけです。




舛添▼


そうすると、その理論に当てはめて考えれば、地球と同じ惑星というのはあり得るんですか?




松井▼


そういうことをやると地球という星が宇宙の中でも、この地球しかない非常にユニークな星であって、こういうことは二度と起こらないんだと考えてしまうよりも、星が生まれてその周りに惑星系が生まれるとすると、あるところには地球みたいな水惑星が必ずできると、理論的には予想できるわけです。




舛添▼


太陽系に限らないんですか?




松井▼


太陽系に限らない。


しかも、宇宙には太陽みたいな星が宇宙にある星の半分近くはある。


さらにもっと似ている星というのはそのうちの80パーセントなんですよ。


そういう星の周りで、ある条件を満たすと惑星系がうまれるわけですが。


惑星系が生まれれば、ほとんど水惑星も生まれるんですよ。


だから広い宇宙、われわれと今生きているこの時代に、そういう他の第二の地球と…。




舛添▼


人間ももちろんいるわけでしょう。




松井▼


そりゃあもう、その上で進化すれば材料物質も同じだし、条件も同じでしょう。


そんな変なこと考えなくたって、地球型生命と非常に似たようなものが生まれて、いずれ知性を持つような生命が生まれたとすると、われわれみたいなものだろうと考えられています。


だけどそれがよく、宇宙人とかいう話になりますけど、宇宙人が地球に来るかということは、宇宙というのは非常に広大だし、時間も経っているわけだし、そういうことはない。


だって地球にテレビができたのは、今から50年くらい前でしょう。


その時から宇宙へも電波がもれていっているわけ。


その電波が今どこまで行っていると思いますか。


まだ50光年ですよ。


一番近い星だってもっとずっと先なんだから。


なかなか交信しようとしたってできないってことは、考えてもわかるでしょう。


だけどわれわれが1億年もこの先、こういう文明を維持できるというならそれは可能性があるかもしれませんよ。


そういうことは多分ないでしょうけどね。



帰還したら自分の国がない!から抜粋



舛添▼


理論でいうと、無限の可能性ということが考えられるはずなんですが、宇宙の中でソ連の宇宙飛行士がとり残されて300日もいて、その上帰ってきたら自分の国がなくなっていた。


ということがあるんですが、私なんか国際政治の立場から見ると、ソ連邦の解体というのが核兵器の拡散の問題も含めて問題が多いんですが、地球物理の立場でみたときに、あれだけの能力、宇宙飛行士を打ち上げるだけの能力をもったソ連邦がなくなると相当ダメージじゃないですか。




松井▼


いや、これはもう大変なことですよ。


というのは、舛添さんは国際政治が専門だから社会主義とは何だとか、そういう実験が70年かけて行われた意味とか、いろいろ考えてられるでしょうが、多分見逃していることがひとつあると思うんですよ。


僕は社会主義という国が、そういう実験をやったことの最大の成果というのは、人類が宇宙に出る道を切り開いたということを考えるんです。


今から30何年か前になりますけど、スプートニック、それからガガーリンが宇宙に飛んだでしょう。




舛添▼


女性だとテレシコワ。




松井▼


それがあったからアメリカが頑張って、アポロ計画で追いかけてきたんですよ。


アメリカは資本主義でしょ。


経済効率みたいなことばかり考えていたら、宇宙になんか絶対出ないですよ。


ところが全体主義国家っていうか、計画経済というか、そういうところはある理念のもとに、いろんなことをやってくれるわけ。




舛添▼


国の威信のためにはそれこそ何でもやるわけですからね。


財政赤字が年間三千億ドルですから、こんなもの抱えていて、とても宇宙予算なんか捻出するわけにいかないでしょうからね。




松井▼


だけど今現在だって、ソビエトが先ほどのミールから降りてくる宇宙飛行士が云々という話が出たけれども、人類が宇宙に出ていって、一年も住むなんて実験をやった国は、ソビエトをおいて他にない。


そこに膨大な量のその種の資料の情報が貯えられてる、知識の集積が。


こういうものは、人類の財産なんですよ。




舛添▼


だけど今のロシア含めて旧ソ連は、そういうことをやる能力もお金もないでしょう。


CIS支援なんてわれわれがいうときには、経済問題、民族問題、核兵器の問題、こういうことしかやっていないんですね。




松井▼


だから、アメリカもヨーロッパもソビエトも今だってやっているわけですよ。


これをさらに継続していくためには、日本がそれにどう関わるかだということが重要だと思うんです。


特に日本が対ソ支援というか、対ロシア支援の時に、宇宙というものを支援していくということを明確にして、それなりのことをやるとアメリカも無視できないし、ヨーロッパも無視できない。


みんなそれぞれに国際協力でそれをやり続けましょう、ということになるんです。


このことが人類にとって非常に大事なことだと思います。



今から30年くらい前。


今も示唆を多く含んでいると感じつつも


世界情勢も大きく変わり


その後、世界の宇宙への見方はどうなるのだろうか。


松井先生の理論はどのようになったのか。


自分としては新テーマを見つけてしまったものの


残念ながら今年3月に亡くなられてしまわれた模様。


過日NHKで宇宙には各国で飛ばした衛星の


ゴミ(スペースデブリ)で飽和状態で


衝突する可能性大という危険な状態という。


それと合わせると今起きている世界情勢、


国のメンツなぞかけて戦争している


場合なのだろうか。


一転して、日本は一昨日の朝、


千葉の港で猪が暴れて警察官が多く出動し


確保したってのをテレビ報道していたけれど


ニュースはそれが仕事なんでいいのだけど


世界のカオスや秩序のパラドックスなどを思うと


涙が出そうになる、やるせない午後で


ございました。


もちろん事は簡単じゃないってのは


わかるのだけれどもなんともやるせなさすぎる。