ドーキンス博士が教える「世界の秘密」



  • 出版社/メーカー: 早川書房

  • 発売日: 2012/12/19

  • メディア: 大型本




リチャード・ドーキンス氏が


子ども向けに書かれた


絵本のあしらいの科学本。


1 What’s Reality? What’s magic?


何が現実で、何がマジックなのか?


から抜粋



現実とは、この世にあるすべてのもの。


単純明快に思える?


でも実はちがう。


いろいろと問題がある。


恐竜はどうだろう?


かつて地球にいたが、今はもういない。


星はどうなのか?


あまりにも遠いので、その光がこちらに届いて私たちに見えたときには、もう消えてしまっているかもしれない。




しかしそれにしても、そもそも私たちは今現在ものが存在することをどうやって知るのだろう?


なるほど、私たちは五感ーー視覚・嗅覚・触覚・聴覚・味覚ーーのとても上手な働きのおかげで、いろいろなものが現実だと確信している。


岩もラクダも、刈ったばかりの草も挽きたてのコーヒーも、紙やすりもビロードも、滝も呼び鈴も、砂糖も塩も、みな現実だ。


しかし、私たちが何かを「現実」と呼ぶのは、五感のどれかで直接感じ取った場合だけなのだろうか?


遠すぎて裸眼では見えない、はるかかなたの銀河はどうだろう?


強力な顕微鏡なしには見ることができない、ごく小さな細菌はどうだろう?


見えないから存在しないと言うべきなのか?


そんなことはない。



モデルーー想像を検証する


から抜粋



何が現実かを五感で直接確かめられないとき、それを解明するために科学者が用いる、あまり知られていない方法がある。


起こっている可能性のあることを「モデル」にして、それを検証するのだ。


まず、何があり得るかを想像するーー見当をつけると言ってもいい。


それがモデルと呼ばれるものだ。


そのあと、もしモデルが正しければ、何が(たいてい測定器の助けを借りて)見えるかどうかをチェックする。


モデルは木製かプラスチック製の模型でもいいし、紙に書かれた


計算式、またはコンピュータによるシミュレーションの場合もある。




例をあげてみよう。


現在、遺伝子ーー遺伝の単位ーーはDNAというものでできていることが知られている。


DNAとその働き方について、さまざまなことが知られている。


しかし、DNAがどんなふうに見えるのか、強力な顕微鏡を持ってしても細かいところは見えない。


DNAについて知られていることのほとんどが、モデルを考え出してそれを試すことによって、間接的にわかったことだ。


実をいうと、DNAのことが話題になるずっと前からすでに、科学者はモデルの予測を検証することによって、遺伝子についてさまざまなことを知っていた。


19世紀、グレゴール・メンデルというオーストラリアの修道士が、修道院の庭でたくさんのエンドウ豆を栽培して、実験を行った。


咲く花の色や、マメがしわしわかつるつるかを、何世代にもわたって調べたのだ。


メンデルは遺伝子を見ることも触ることもなかった。


彼が見たのはマメと花だけであり、目を使ってさまざまなタイプを数えることができた。


メンデルは、現在私たちが遺伝子と呼ぶもの(メンデルはそう呼んでいないが)を取り入れたモデルを考え出し、自分のモデルが正しければ、ある交配実験でつるつるのマメがしわしわのマメの3倍になるはずだと計算した。


そして数えてみるとその通りであることがわかった。



なぜ、メンデルは修道士でありながら


研究してたのか、余計な詮索したくなる。


それは置いておいてすごくわかりやすい。


かつ以下で、重要ポイントも示唆される。



ここで大事なのは、メンデルの「遺伝子」は彼の想像力がつくりあげたものだったことだ。


目ではもちろん、顕微鏡を使っても、それを見ることは出来なかった。


しかし彼はつるつるのマメとしわしわのマメを見ることができて、それを数えることによって、自分の遺伝子モデルが現実世界をみごとに表しているという間接証拠を発見したのだ。


のちに科学者たちは、マメの代わりにショウジョウバエなどの他の生き物を研究し、メンデルの手法の改良版を用いて、遺伝子は染色体と呼ばれる細い糸状のもの(染色体はヒトに46本、ショウジョウバエに8本ある)に沿って一定の順序で並べられていることを明らかにした。


モデルを検証することによって、遺伝子が染色体に沿って配列されている順序を正確に解き明かすこともできた。


ここまですべて、遺伝子がDNAで出来ていることが知られるずっと前の話だ。




今やそのことは知られている。


そしてDNAが具体的にどう働くかも、ジェイムズ・ワトソンフランシス・クリック、さらにそのあと現れた大勢の科学者のおかげでわかっている。


ワトソンとクリックは、自分の目でDNAを見ることはできなかった。


またしても、モデルを想像して検証することにより、発見をなしとげたのだ。


彼らの場合、DNAがどんなふうに見えるかそっくり示す模型を金属ボール紙でつくり、その模型が正しかった場合、測定値がどうなるはずかを計算した。


二重らせんモデルと呼ばれるそのモデルによる予測は、ロザリンド・フランクリンモーリス・ウィルキンスが精製DNAの結晶にX線を照射する特殊な装置を使って測定した値と、ぴったり一致した。


ワトソンとクリックはすぐに、自分たちのDNA構造のモデルはメンデルが修道院の庭で目にしたような結果をきっちり出すことに気づいた。



科学と超自然現象ーーー説明と説明にならないもの


から抜粋



以上が現実というものであり、何かが現実かどうかを知る方法だ。


この本の各章で、現実の側面を一つづつ取り上げていくーーーたとえば、太陽、地震、虹、さまざまな動物、といった具合にだ。


ここで、この本のタイトル(訳注 本書の原題はThe magic of reality『現実のマジック』)に入っているもう一つのキーワード、マジックに目を向けたい。


マジックとはあいまいな言葉だ。


三通りの意味でよく使われるので、まずそれを区別しておく必要がある。


私は第一の意味を「超自然のマジック」、


第二を「ステージ・マジック」、


第三を「詩的なマジック」(私の一番好きな意味であり、本のタイトルにはこの意味で使っている)と呼ぶ。




超自然のマジックは、神話やおとぎ話に出てくるような魔法だ。


アラジンのランプや、魔女の呪文や、グリム兄弟や、ハンス・クリスチャン・アンデルセンや、J・K・ローリングの魔法。




一方、ステージマジックは本当に起こるし、とても楽しい。


観衆が考えていることとはちがっても、少なくとも何かが実際に起こる。


 


死者と交信できると主張して、悲しみにくれている人につけ込むペテン師もいる。


それはもう娯楽やショーではなく、だまされやすい人や苦悩する人を食いものにしているのだ。


公平のためにいうと、そういう人の全員がペテン師ではないかもしれない。


自分は死者と話していると、心から信じている人もいるかもしれない。




マジックの三番目の意味は、私がこの本のタイトルに使っている意味、つまり詩的なマジックだ。


この意味のマジックは、とても感動的で刺激的だということ、ぞくぞくするようなもの、自分が十分に生きていると感じさせてくれるものを指す。


私がこの本で示したいのは、現実ーー科学的手法によって理解される現実世界の事実ーーは第三の意味で、生きるとはすばらしいという意味で、マジックだということだ。




さてここで超自然現象という考えに戻って、それが周囲の世界や宇宙に見えるものの真の説明にはなり得ない理由を明らかにしたい。


実際、何かを超自然現象として説明することは、まったく説明になっていないうえに、下手をすると、それが説明される可能性をも消し去ることになる。


なぜこんなことを言うのかって?


なぜなら、「超自然」のものはすべて、その名の示す通り、自然の法則による説明がおよばないはずだからだ。


科学の力も、きちんと確立されて十分に試された科学的手法の力も、およばないはずである。


この400年ほど私たちの知識が大幅な進歩をとげてきたのは、そのような科学的手法のおかげなのだ。


何かが「超自然的に起こった」と言うのは、単に「私たちはそれを理解していない」と言っているのではなく、「私たちには絶対に理解出来ないのだから、努力は一切無用だ」と言っていることになる。




科学のアプローチは正反対だ。科学はすべてをーーー今のところーーー説明できないからこそ進歩する。説明できない無力さが刺激になって、疑問点を追求し続け、ありえるモデルをつくって検証することで、少しづつ真実に近づいていく。現実に対する理解に反することが起こった場合、科学者たちはそれを現在のモデルに突きつけられた挑戦ととらえ、そのモデルを捨てるか、少なくとも変える必要があると考える。


そのように調整し、続けて検証することによって、私たちは真実にだんだん近づいていく。



訳者あとがき


太田直子 2012年11月


から抜粋



あれほど科学の最先端を行っているアメリカでさえ、天地も人間も神が創造したと信じる人がかなりの割合いて、学校で進化論を教えるかどうかが論争にまでなるそうです。


そんな社会で子どもたちが無条件に信仰を刷り込まれることに、ドーキンスは危機感を覚えています。




ともあれ、この本からは科学の楽しさが十分に伝わってきます。



イラストもかなり凝ってて


全ページカラーで大判本、


これは楽しいかもしれない。


それにしてもドーキンスさん、


子ども向けなので簡素な言葉だけど


相変わらずな両断っぷり。


未知の領域が明らかになって


しまうじゃないですか!


ってドーキンス氏にとっては


そういうのはないんだよ


科学で説明つくの!って感じ


なのだろうね。


でもねえ…それはねえ…


ほどほどがいいんじゃないですかねえ。


とアジア人の感覚からするとなんだけど。


訳者さんのあとがきを読むと欧米での


宗教の刷り込み具合が


深刻な何かになっているのがわかるので


私とドーキンスさんの


このギャップ感は埋めようがないですけど。


でもなんか気になるし、


興味が尽きないのだよなあ。


遺伝子レベルで繋がっているのか。


いや、そんなわけねえだろ。


今日は夜勤だから準備しないと。


余談だけど、今Spotifyからランダムで


流れてきた曲が


これだったよ。素晴らしい。


これぞ超自然現象だなあ