生命の未来を語る (シリーズ・健康と食を問い直す生物学)



  • 出版社/メーカー: 岩波書店

  • 発売日: 2003/03/26

  • メディア: 単行本




表紙袖の紹介文から


クローン人間、再生医療、組換え作物…生命について、私たちは何を知っていて、何を知らずにいるのでしょうか。


先端の生物学の成果は、社会に恩恵をもたらすと同時に、大きな議論も引き起こしています。


本書では科学の歴史から説きおこし、最新の医療の姿、食のあり方、そして新しい生命観について、医学の先端を歩む本庶氏と、専門家と市民の視点をもちあわせた中村氏が語り合います。



第一部 生命系の中の人間


転換点にある人間


から抜粋



本庶▼


これまで人間の文明は過去数千年、急速な発展を遂げてきました。


とくに、この数百年の自然科学の展開には大きなものがあります。


ご承知のように、それは物理学や化学という分野での発展が先導してきました。


生命科学はどちらかというと、遅れてきた学問だと思うのですが、今、この生命科学の発展が社会ときわめて密接につながってきています。


生命科学の発展が、社会全体を動かす力になりつつあります。


これは、少し前に物理学の発展が社会そのものにものすごく大きな影響を与えたのとよく似ています。


たとえば、エネルギー・交通・通信手段の革新的発展によって社会のシステム全体が変化しました。


もちろん、良いことばかりではなく、原子爆弾というものが物理学から出てきて社会に強烈なインパクトを与えました。




生命科学は、まだ幸いにして原子爆弾に相当するものをつくり出してはいませんが、多くの人が、ひょっとするとそちらの方向にいくかもしれない、という漠然とした不安を感じています。


そして、生命科学の発展が、できれば、なんとか人間社会にとってプラスの方向だけであってほしいと、私を含めて多くの人が願っています。




中村▼


最近生命科学への関心が高いのですが、IT産業が思うように進まないからその代わりにバイオ産業だというような、短期的で一面的な見方が強いのは気になります。




自然・生命・人間のそれぞれ、およびそれらの関係をどう考えるかということに関して、人間の歴史の中で大きな転換点にあるということは、強調しなければなりません。




しかも今指摘されたように、文明という視点と学問、もう少し大きくいうなら文化という視点の二つがお互いに重なり合いながら進んできた流れを整理しなければいけないわけです。




ですから今、生命科学が大きな力をもっているということも、その通りでしょう。


その力の扱い方が問題ですね。


物理学と同じように考えるのではなく、生命に基本を置く新しい「知」が必要とされていると思います。



多様性をも語るDNA から抜粋



本庶▼


生物の進化を説明するダーウィンの原理的な考え方は、のちに生物の多様性を決めているものはDNAであるというところへ結びつきました。


そのDNAのなかの少しずつの変異と、環境との相互作用で今のような多様性が生じたのだと…。


これも原理的にはやはり正しかったのです。




中村▼


最近、ちょっと必要があってダーウィンの『種の起源』を読み直してみたのです。


この本が出版された当時の英国はもちろんキリスト教が強かったから、聖書にあるように生き物はそれぞれ別々に創造されたと考えられていた。


ダーウィンは、自然界の生きものだけでなく、家畜のように品種改良された生きものも観察して、どう考えても別々に創造されたのではおかしい、何か共通の基になるものがあって分かれてきたとしか思えないという考えに達するわけですね。


それを繰り返し、繰り返しいっている。


若い頃に読んだときには自然選択について知ろうという気持ちが強く、ダーウィンの生きものを見つめる眼に気がつかなかったのですが。




ダーウィンの進化論は自然選択、ときに弱肉強食などと総括されていますが、ダーウィンが本当に考えていたことは、この地球上の生きものは別々の独立したものではなくつながっているということだったと改めて感じました。


今ダーウィンが生きていたら喜ぶだろうなあと想像しました(笑)。




環境との相互作用=ダーウィンが考えた自然選択説は、今日の生命科学の言葉では次のように説明されている。


生物が子孫を残すためにDNAを複製する(コピーをつくる)とき、遺伝子(DNA)に変異(誤り)が生じることは避けられない。


すなわち、子孫を残す過程でDNAにはほとんど無差別的な変異が生じる。


これはDNAの複製の際の間違いや放射線、あらゆる偶然の要素によって引き起こされるのである。


したがって多くの場合、生物はできるだけ多くの子孫を残そうとする。


それはこのような無差別的なDNAの変異によって生じたものの大部分は生存に適さないものとなるからである。


多くの変異のなかにわずかながら、生存により適したものが生じたときにその遺伝子をもった子孫の数が増えることになり、したがってその子孫がますます増加するというのがDNAの変異と環境の相互作用によって引き起こされる自然選択である。



本庶佑博士のことはほぼ初見なのですが


食のことまで踏み込んで対話されていて


意外に思ったがおそらく博士の中では


ひと続きのものなのだろうと感じた。


医療に対する警告もこの時から


かなりシリアスにされている。


ただいま現在の世界をどのように


ご覧になっているかということが気になりつつ、


同博士の本を読みたくなった。確か1冊ありました。


余談だけれど、なぜかいつも出てくるダーウィン。


これも”なぜか”ではなく必然なのだろうと思った


今年最後の夜勤前の通勤時の読書でございました。