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3冊とリアルから”文明と感染症”を考察 [新旧の価値観(仕事以上の仕事)]

ペスト大流行: ヨーロッパ中世の崩壊 (岩波新書 黄版 225)


ペスト大流行: ヨーロッパ中世の崩壊 (岩波新書 黄版 225)

  • 作者: 村上 陽一郎
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1983/03/22
  • メディア: 新書

5 さまざまな病因論


黒死病以前の病因説


病因論の背景


から抜粋


すでに述べたように、黒死病期以前にも、世界はペストの世界的大流行を体験している。

ヨーロッパ世界も必ずしも例外ではなかった。

しかし、その病因についての議論が十分に積み重ねられていたわけではない。

そもそも、われわれは、伝染病やその流行という概念を、病原体に感染する、という現象と結びつけることに慣れている。

むしろ慣れすぎていて、時に大きな過誤を犯すことさえある。


しかしながら「病原体」という概念や、その「感染による発病」という考え方が確立されたのは、西欧医学の伝統の中でも極めて新しいことであって、たかだかここ200年程度の歴史しか持たない。

19-20世紀のドイツ最大の医家の一人ウィルヒョウでさえ、病原体による感染という概念をなかなか全面的に受け容れなかったほどである。


ヒポクラテスの病理学説 から抜粋


したがって、「流行病」はすなわち「伝染病」である、とうことさえ、黒死病の伝統を形造った主要な要素の一つであるヒポクラテス医学は、ギリシアの医聖ヒポクラテス(c.460-375 b.c)に端を発するが、彼の病理説に従えば、病気の原因はただ一つしかないのである。


ヒポクラテスは、人体の健康状態を左右するものとして、四種類の体液を考える

血液、粘液、黄胆汁、黒胆汁である。

そして体内においてこれらの4種の体液がある平衡を保っている、とされるのである。

この平衡は「クライシス」(crasis)と呼ばれる。

この語はもともとは「混合」を意味するギリシア語に由来している。

この平衡状態が「よい」場合には「ユークラシス」(eucrasis)と呼ばれ(ギリシア語の”eu”は、「安楽死」euthanasy「優生学」eugenicsなどの語でも判るように「よい」、「優れた」を意味する)、平衡が崩れた失調状態は「ディスクラシス」(discrasis)と名付けなれる。


さて、したがって、こうした病理論から言えば病気とは、基本的に、四体液の平衡の失調(ディスクラシス)によって惹き起こされるものであり、それゆえ、治療もまた、四体液の「よき平衡」(ユークラシス)の回復を図るという一点に絞られる。

かつてヨーロッパでも「瀉(しゃ)血」(刺絡(しらく))が極めて重要な医療行為であったのも、そうした背景があったからである。


ただし、これだけでは十分ではない


ということで14世紀中世ヨーロッパでの


感染症(ペスト)から医療行為や社会の


紆余曲折、変遷の過程をつぶさに検証分析、


自分は今のコロナ禍での社会と比較しながら


拝読させていただき大変興味深かった。


余談だけれども”ウィルヒョウ”博士は


養老先生も他のことで指摘されていたなと。


話を、中世、ペストに戻しまして


最近の村上先生の言説は、先日読んだ


こちらにもございました。



ウイルスとは何か 〔コロナを機に新しい社会を切り拓く〕

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  • 出版社/メーカー: 藤原書店
  • 発売日: 2020/10/27
  • メディア: 単行本

第一部 ウイルスと人間ーー問題提起


ウイルスとの闘いの人類史


村上陽一郎


感染症の過去


から抜粋


遥か歴史時代の初めから、人間は、流行病についての知識を積み重ねてきました。

例えば早くとも紀元前9世紀ころまで遡れる『旧約聖書』には、ヘブライ語で<Zaraath>とされる「病気」が頻繁に現れます。

この語は、かつての日本語訳では、「癩(らい)」と訳されて来ました。

今では「ツァラアアト」の全てがハンセン病ではないと考えられていますが、人里離れたところで辛うじて生を繋ぐ運命にあったようです。


日本の『書記』でも「白癩(はくらい)」という言葉があって、ハンセン病を意味するとされます。


また「えやみ」という言葉も現れますが、これが「流行病」をさすと思われます。


現在栃木県に、「山揚げ祭」という大きな行事があります。

通常は悪疫退散を祈る祭りとして発足した、と理解されていますが、一説によると、悪疫の病者を山に遺棄する行為を「山揚げ」と称したともいわれます。

こうした行為は全国に広がっていた、と考えられます。


要するに、何か悪いものが、人から人へ伝えられて、病気が蔓延するという経験的知識が古くから各地にあったことは確かで、それが、病者の隔離、遺棄に繋がっていたと考えられます。


しかし、ここで強調しておかなければならないのは、医療界での理論的な場面では、病因論という点で全く発展はなかったという点です。

当時最も人気のあった理論は、大まかにいって二つあります。


一つは瘴気(しょうき)説というべきものです。

「瘴気」とは、地中深くに伏在する悪い空気のことです。

深井戸に蝋燭の灯りを下ろしていくと、途中で消えてしまいますし、そこに落ちた生き物はやがて死んでしまいます。

地中深くに瘴気が澱んでいる証拠と考えられました。

この瘴気が地震、火山の爆発、大水による地層の変化などの理由で、大気中に解放されたとき、人々はばたばたと死んでくのだというのが瘴気説です。


もう一つの説は、占星術的な性格のものでした。

この時期のヨーロッパに流行していた哲学に新プラトン主義があります。

この哲学では、万物は四囲に向かって自己を流出(emanate)している、という原理を基礎としていました。

地上の人間も、天上の天体も、皆そうなのです。

天体の流出(emanatio)が地上の我々に届くと、我々の立場からすればそれは「流入」(influentia)ということになります。

天界における星々の位置は刻々変わりますが、それに伴って、地上への星々の流入角度も変化します。

その状態が、占星術的に「悪い」とき、人々はその「影響」を受けて、斃死(へいし=行き倒れて死ぬこと)するのです。

英語で「影響」を<influence>というのも、毎年流行するヴィルス病を「インフルエンザ」というのも、まさにここに由来します。


病因論として、人から人へ何か悪いものが伝わる、というときの「何か悪いもの」が明確に同定されるのは、実に19世紀半ばになってからのことです。


病気と認知されたのは19世紀半ばという


比較的新しいものだという。


今も解析途中なのだろうなと思ったりもする。


”山揚げ”のエピソードは”姥捨”のメンタリティが


少しでもある国民であれば、良い悪いではなく


わかる気もする行為なのだろうな。


肯定とか否定という二択論ではなく。


さらに別の視点でコロナ禍と


感染症を検証されていて自分的には


かなり興味深いお二人の対談がございます。



パンデミックの文明論 (文春新書)

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  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2020/08/20
  • メディア: Kindle版

第2章 パンデミックが変えた人類の歴史


キリスト教を受け入れる心理作用


から抜粋


中野▼

ヨーロッパ文明の転換点に大きな感染症があったこと、そしてそれがキリスト教の勢力が拡大していく契機となったこと、また同時にローマ帝国が国力をあっという間に失っていった原因となったことがよくわかりました。


ヤマザキ▼

ひとつお伺いしたいんですけど、ペストの時にキリスト教が受け入れられた理由として、危機に瀕した際の人間は善なるものを希求する、というような心理作用はあるんですか?


中野▼

危機に際しては、善なるものであるかどうかを吟味するより以前に、理性で判断するのを放棄するようになる、という傾向が強くなりますよね。

理性の代わりに勘だとか、情報の分かりやすさだとかに頼ってしまうようになる。


脳がカロリー消費を節約するとき


から抜粋


ヤマザキ▼

結局、危機的状況で求めるのは、ひとときの安心ってことなんですかね。

それこそメルケル首相の「レジに座っている方、ご苦労様」っていうカメラ目線の発言に大勢の人がコロッといっちゃうわけですから。


中野▼

人間って、2000年経ってもあまり変わらないんですね。


そういえば、科学哲学者の村上陽一郎さんが、確かこんな意味のことを書いていらっしゃいます。

40年近く前の岩波新書『ペスト大流行』なんですけれど、


「ありとあらゆる人生の悪行を重ねてきた人々も、そのペストの時に突然慈善を行うようになった。

これは自省の精神を取り戻して善行の愛好者に変身したからではなく、多くの場合、目の当たりにする災禍に恐れおののいて、なんとか破局から身を逃れようとしたからであった」


人々がキリスト教に惹かれたのも、そうすれば自分は救われるかもしれないという虫のいい期待があったのかもしれません。


人心乱れる時に災いあり、故に神仏に祈りを


というのは感覚的に判る気がする。


何も手の施しようのないものは


ヒトの考えうるところに救いはないような。


なんか宗教チックになってしまうのだろうな。


神へなのか、仏へなのか、わかりかねますが。


余談、かのハラリ博士の言葉を思い出す。


最大の敵はウイルスではない、心の悪魔だと。


なんかいろんなところに思いが至る


深い本たちだったが、風邪気味な今日は


そろそろ昼食を拵えて夜勤に備える


天気の良い5月末日でございます。


 


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