SSブログ

朽ちていった命:被曝治療83日間の記録(2006年) [’23年以前の”新旧の価値観”]


朽ちていった命:被曝治療83日間の記録 (新潮文庫)

朽ちていった命:被曝治療83日間の記録 (新潮文庫)

  • 作者: NHK「東海村臨界事故」取材班
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2006/09/28
  • メディア: 文庫

1999年に起きた


東海村臨界事故


ドキュメントの書籍。


NHK「東海村臨界事故」取材班が


纏められた。


忘れてはならない事件だと思った。


文中の大内・篠原さんは


被曝して亡くなられた技術者、


前川さんは、当時


東京大学医学部附属病院で


治療にあたられた


主担当医のことを指す。


 


最終章の


「折り鶴 未来」から抜粋


事故から一年あまりたった2000年10月11日、茨城県警察本部の捜査本部はJCOの事故当時の所長ら6人を逮捕した。

捜査本部は、JCOが臨界の危険性を作業員に指導しないまま、バケツを使ってウラン溶液を扱う違法な作業をつづけさせるなど、国から許可を受けていないずさんな作業を重ねていたとした。

そのうえで、六人がそれぞれの立場で尽くすべき安全教育や監督を怠ったため、臨界事故が発生し、大内と篠原を死亡させたとして、業務上過失致死の疑いで逮捕したのだ。

国内の原子力施設で起きた事故で逮捕者が出たのは初めてだった。

六人は起訴され、大内の死から一年が過ぎた。

そのころ、前川の元に、大内の妻から手紙が届いた。

無事一周忌の法要をすませたことや、大内の実家を出て息子と二人で暮らすようになったことなどを報告したあと、手紙には、こう綴られていた。


「事故以来、ずっと思うことは、自分勝手と言われるかもしれませんが、例え、あの事故を教訓に、二度と同じような不幸な事故が起きない安全な日々が訪れたとしても、逝ってしまった人達は戻って来ることはありません。

逝ってしまった人達に”今度”はありません。

とても悲観的な考えなのかもしれませんが、原子力というものに、どうしても拘らなければならない環境にある以上、また同じような事故は起きるのではないでしょうか。

所詮、人間のすることだから……という不信感は消えません。

それならば、原子力に携わる人たちが自分自身を守ることができないのならば、むしろ、主人達が命を削りながら教えていった医療の分野でこそ、同じような不幸な犠牲者を今度こそ救ってあげられるよう、祈ってやみません。」


解説 柳田邦男 から抜粋


1999年9月30日に起きた東海村臨界事故では、ウラン燃料の加工作業をしていた大内久氏と篠原理人(まさと)氏の二人の技術者が大量の中性子線をあびて死亡した。

二人とも現代医学の最先端の知識と技術を動員した治療を受けたが、大内氏は83日目に、篠原氏は211日目に最期を迎えた。

本書は、岩本裕記者を中心とするNHK取材班が、大内氏に焦点をあてて治療と闘病の経過を追ったドキュメントだ。


他にもいくつか、同じ問題を扱った書があるものの


取材報告に力点を置いているため、この書との


異なる点を指摘。


しかし、高線量の中性子線被曝をした作業員が身体の臓器・組織・機能にどのようなダメージを受け、それに対し東京大学医学部附属病院に集まった前川和彦教授(当時)を中心とする最高の医療班が、どのように苦闘したかについて詳細に追加取材をした記録はなかった。

そこに焦点を絞った点に、岩本記者達の取材記の意義がある。


2001年NHKでも放送されたようだが


配信はされていない。


そのため、現時点ではこの書籍以上に


詳細をつかむのは


難しいのかもしれないため、ぜひNHKで


配信を検討してほしいと思った。


 


当初、大内さんは会話もでき、


前川医師も救えるとお感じになったと。


しかしその後、


前例のない中で懸命な


職員の対応、


刻々と変わりゆく状態、


ご家族の献身な励ましが続くが、


それでも、命尽きてしまう。


 


亡くなる前、重症患者用の


ローリングベッドという


定期的に自動で体の向きを


変更できるものにされ


傾いた時に転げ落ちないよう


身体が固定化されている様子を


ご家族が


「お父さんロボットみたいになっちゃって」


と、こぼしたという。


 


これは、誰が、どこが、なにが、


悪いのか、という問題なのだろうか。


義憤にかられて頭がうまく回らない。


 


亡くなった後の大内さんの奥様や


看護婦さん達の言葉が


悲しすぎてまともに読めなかった。


病み上がりには無理な本です。


 


余談だけど、


映画「チャイナ・シンドローム」(1979年)


を先日観たのだけど


あれも複雑な原因とでもいうか


事故になりそうで食い止めたという事象を


たまたま居合わせたメディアと


原発の現場と経営側が翻弄される裏で


本当の問題は手抜き工事で


それを所長だけが知ってしまったこと


さらにそれがまかり通る通る社会


とでもいうか。


 


こういうことを”人間の性”と一言で


片付けるにはあまりにも忍びない。


nice!(27) 
共通テーマ:

nice! 27