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気象を操作したいと願った人間の歴史:ジェイムズ・ロジャー・フレミング著・鬼澤忍訳(2012年) [’23年以前の”新旧の価値観”]


気象を操作したいと願った人間の歴史

気象を操作したいと願った人間の歴史

  • 出版社/メーカー: 紀伊國屋書店
  • 発売日: 2012/06/21
  • メディア: 単行本

はしがき から抜粋


現代の気候エンジニアは、気候変動にどう対処すべきかという問題へのあるアプローチを擁護している。

そのアプローチは私に、科学技術的な解決に関してきわめて深い疑いを抱かせる。

それは重大な欠陥のある不確かな企てであり、「空を修理する」という非現実的で危険ですらある目論見を持っているのが普通だ。さまざまな提案は、「太陽放射管理」をはじめとする地球規模の手段を含み、熱力学的に現実味のない、大がかりな炭素の回収と隔離の計画を伴っている。

この種の提案を支えているのは、思いつき的な計算や、十分とは言えない単純なコンピューター・モデルの操作であることが多い。

こうしたアプローチで忘れられているのは人間が天気や気候を支配しようとしてきた波瀾万丈の歴史なのである。


第八章 気候エンジニア から抜粋


■私は何を知りうるか?

気候はつかみどころがなく、複雑で、予測不能であることを、われわれ知っている。

気候はあらゆる時間的・空間的規模でつねに変化していることを、われわれは知っている。

そして、入り乱れた詳細についてほとんど知らない。来週どんな天気になるか、近い将来か遠い将来に突然の激しい気候変動があるかどうかは、わからない。

人間、とりわけ「奪う者」が農業を通じて、また、化石燃料の燃料とその他の多くの行為のすべてによって、気候システムに摂動を与えてきたことをわれわれは知っている。

それらすべての究極的な帰結はわからないが、よくはないだろうと強く疑っている。

気象・気候制御が名案入り交じる歴史を持つことをわれわれは知っている。

傲慢さから生まれ、ペテン師と、誠実だが道を誤った科学者たちを育んできた歴史である。

気象・気候制御計画のほとんどが、その時期の差し迫った問題への当てずっぽうの対応で、その時代に流行していた最先端の技術である大砲、化学物質、放電、飛行機、水素爆弾、宇宙探査ロケット、コンピューターなどに依存していたこと、そうした技術の大半は軍に起源があることも知っている。

気候システムを最もよく理解する人たちが、その複雑さに対して最も謙虚であり、気候を「修理」する簡単で安全で安価な方法があるとはとうてい言いそうにはないことも、われわれは知っている。多くの気象・気候エンジニアが、そうしたことを考えた「第一世代」だと自負し、「前例のない」問題に直面したがゆえに、歴史の前例とは無縁だと思い込んでいることも、われわれは知っている。ところが、彼らにこそ、歴史的前例がどうしても必要なのだ。


■私は何をすべきか?

われわれ全員がそう問い、最も合理的で公正で効果的な答えの実現に力を合わせるべきだ。

気候研究所の私の同僚たちは、中道的解決策の支持を雄弁に説きながら、責任ある地球工学の研究も擁護し、その一方で、憶測に走る人たちを啓蒙し、やんわりと誤りを正している。

(※Mccracken,Beyond Mitigation

地球工学の危険は地球温暖化の危険よりも悪いのかと問うてきた人たちもいる。

おそらくそのとおりだと、私は思う。

ことに、われわれが歴史上の前例と文化的意義を無視すれば、そうなるだろう。

自然の複雑さ(と人間の性質)を前にして、十分な謙虚さと、畏怖さえ培うべきだ。

複雑な社会的・経済問題に対し、単純化しすぎた技術的解決策を提案してはいけない。単純化しすぎた社会的・経済的解決策を提案するのもいけない。

検証不能な結果について功績を主張してはいけない。

地球の発熱にはヒポクラテス流の処方箋「助けよ、さもなければ、少なくとも害を与えるな」を採用しよう。

幅広い気候区分と多くの文化を持つ多元的世界において、緩和と適応を実践しよう。

最優先すべき倫理的大原則として、カントの定言命法人間一般に無条件に当てはまる道徳法則)に従うのが良いのではないだろうか。「あなたの意志が同時に普遍的法則となるような格律のみに基づいて行動しなさい」


■私は何を望みうるか?

恐怖と不安はわれわれを凍りつかせ、行動を起こすのを阻んだり度を越した行動をとらせたりする。

われわれはそうした恐怖と不安の克服を望むことができる。

みなが納得できる、合理的で、実用的で、公平で、効果的な気候の緩和と適応の中道の出現も、望むことができる。


訳者あとがき から抜粋


地球温暖化問題が世間の耳目を集めるようになったのは、だいぶ以前のことである。

近代以降、大量に排出されてきた二酸化炭素によって気温が上昇し、今後さまざまな自然災害が発生するおそれがあるというのだ。そうした事態を避けるため、生活のスタイルを変えて二酸化炭素の排出量を減らすべきだという考え方は、現在では半ば常識となっている。目下わが国で論争の的となっている原発問題にしても、発電に際しての二酸化炭素の排出削減が、原発を推進すべき理由の一つに挙げられているようだ。

ところで、地球温暖化対策には、もっと急進的な方法もある。

「地球工学」によって地球の環境を大規模に操作しようというもので、たとえば、太陽シールドを打ち上げて地球に日陰をつくる、硫酸塩などの物質を高層大気に散布して太陽光を弱める、数十万本におよぶ巨大な人工木を植えて二酸化炭素を大気から吸収するなどといった方法である。

SFに出てくる話のようにも思えるこうした提言が、現実になされているという。

だが、この手の方策には地球に害を及ぼす計り知れない危険性が潜んでいるため、極端な手段に安易に飛びついてはならず、慎重を期して「中道」を進むべきだというのが本書の主張である。


人間が自然を操作っていうのは


やはり健全ではないのだろう。


環境破壊が取り沙汰される昨今


このままで良いはずはないから


自然を操り改善と成すってのは


わからないでもないけど、まあ


その方向ではやらないほうが良いだろうな。


それよりも、どこまで破壊したか


っていうのを知ることで


でも、正確にはわからないだろうから


まずは現状把握として


何を指針とするのが良いのか。


可能な限り正しいと思われる情報を集め、


分析、そしてそこから何を導いて、何ができるか。


猶予がないのはわかるのだけど


現状がわかってないと先に進めないよね。


常軌を逸したものではなく、現実的なもの


それは「中道」である、というのが興味深かった。


自然(雨、雲、霧)を支配して


一儲けしようとした人たちの


悲喜交交(ひきこもごも)の話のようだけど


それとは別に自分はそこが一番響いた。


また違うタイミングで読んだら違うんだろうけどなあ。


今は自分として響いたのはそこ「中道」でした。


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