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ホセ・ムヒカ 世界でいちばん貧しい大統領:アンドレス・ダンサ/エルネスト・トゥルボヴィッツ共著 大橋美帆訳(2016年) [’23年以前の”新旧の価値観”]

 


ホセ・ムヒカ 世界でいちばん貧しい大統領 (角川文庫)

ホセ・ムヒカ 世界でいちばん貧しい大統領 (角川文庫)

  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2016/03/24
  • メディア: 文庫

「序文」から抜粋、艸場(くさば)よしみさんの言葉。


彼のシンプルな言葉の背後に、軍事政権下での壮絶な投獄体験と、

膨大な読書で磨かれた知性があるのを知った

(中略)

ムヒカ氏は決してお花畑の理想主義者ではなく、きわめて合理的な現実主義者である。

しかしそれは冷徹と言うのではない。彼は言っている。

「イデオロギーで政治をしてはならない。

大事なのは、現実を生きている人の生活が良くなることなのだ」

と。

政治家が自分で描いた理想の国に姿に国民をあてはめようとすれば、国はどんどんやせ細る。

大事なのが「国の形」になってしまい、そこで現実に生きている国民を忘れてしまうからだろう。

ムヒカ氏の言葉は私の羅針盤になった。

だがこれを私だけが味わうのはもったいない、

ぜひ若い人たちや大人にも伝えたい、そう思って

「世界でいちばん貧しい大統領からきみへ」(汐文社)と言う本にまとめた。

現代人をこうも惹きつけ考えさせるホセ・ムヒカとは、一体どんな大統領だったのか。

本書は、19年にわたり氏を密着取材してきた

ウルグアイのジャーナリストによる、ホセ・ムヒカの人生の記録である。


本書の前に、ちょっと別のコンテンツから。


映画「ムヒカ 世界でいちばん貧しい大統領から


日本人へ(字幕版・2020年)」で自分が印象に残ったシーン。


ウルグアイのどこかの店主と言い争い、応戦するムヒカ氏。


店主曰く「あんたのおかげで俺の生活は悲惨になったんだよ!」


みたいなことをまくしたてられ、口論・応戦するムヒカ氏の姿。


その姿はスマートな大統領とはかけ離れていた。


そんな事態も、そう言う意見も、そら当然あるんだろうけど、


そんなんわざわざ、あえて映画に入れるかなー、そして


それを主役がOKするかなー。


少なくとも日本の権力者のルポでは「忖度」が働いて無理だろうと。


良い悪いではなく、ファクトとして感じた。


 では、本書からの引用。


「8 証人」 からの抜粋


2012年の初め、ムヒカとオバマはコロンビアの

カルタヘナ・デ・インディアスで開かれたサミットでたまたま顔を合わせることになった。

その夜の晩餐会で二人は隣同士に座り、最初の瞬間からとても馬が合った。

ムヒカは、オバマについてとても聡明で思慮深い人物であると言う印象を持った。

晩餐会は三時間にも及び、二人はその間中ずっと意見交換をしていた。

互いの熱意が伝染したのだ。

 

あの夜、オバマがウルグアイについてよく知っていることがわかった。

私のことも重要人物のように思ってくれているようだ。

だが、国際社会では、私は自分が変わり種だと言うことを知っている。

私はパラメーターの中に入らないんだ。

オバマは、アメリカの他の政治家と比べると急進左派だ。

だから、言ってやったよ。「アフガニスタンから撤退しなさい」とね。

オバマは笑っていた。彼には通訳がついていた。

私も少しなら英語がわかるが、彼らが話すと何を言っているか全く理解できない。

オバマにはカリスマ性があり、品があって立派だ。

あのサミットでは、アメリカを非難するスピーチが

20以上あったがオバマは辛抱強く聞いていたし、それはそれで尊敬すべき態度だと思う。

私は彼に行ったんだ。

「あなたはアメリカが私たちに与えられる最高の大統領です」とね。

現在のアメリカの置かれた状況から考えるとオバマは最高の大統領だ。

 

翌年5月、ムヒカはホワイトハウスにオバマを訪れた。

元ゲリラだったラテンアメリカの指導者が、

アフリカ系アメリカ人の大統領が使用する大統領執務室に足を踏み入れるのは初めてのことだった。

ウルグアイの異端児(オペハ・ネグラ)からアメリカの異端児(ブラック・シープ)へ。

全てが歴史的な特徴を持っており、そして実際に歴史になった。


でも、この時ストレスにさらされ白髪だらけになったオバマを見て老け込んだなあ、と思い、話したとされる。


そして当時の副大統領とも会談をしているようだ。


バイデンは、ムヒカと一対一の会談をすでに何度か行っていた。

5月にはワシントンでムヒカと昼食をとり、

ムヒカがスープ皿の前で舟をこいでいるのを目撃したバイデンは、

グアンタナモ収容者のウルグアイへの引き渡しを急ぎたいと考えていた。

その目的は達成されなかったが、両政府の合意内容には、

ウルグアイでの選挙が終わったらすぐに着手するというムヒカの約束が含まれた。

また、この時バイデンは、なぜか国際社会でこれほど有名になったのかも理解した。
携帯電話での通話が何度も途切れた時

「こう言うことは初めてだよ」と、バイデンはアドバイザーたちに語った。

 

ムヒカはヨーロッパでも歓迎を受け、

それほど親しくはないにしても、何人かのヨーロッパの指導者らとも絆を育んだ。

ムヒカは大統領として6回ほどヨーロッパを訪問したが、

最も長い旅程が組まれたのは、2011年にノルウェー、スウェーデン、ドイツ、ベルギーを

訪れた時で、2013年にはスペインを訪れ、フランシスコ教皇に謁見するためにバチカンにも行った。

ムヒカは、ヨーロッパの中でも特に伝統のある場所での滞在を楽しみ、

世界で最も美しい街としてパリ、プラハ、エジンバラを挙げる。

長い歴史を持ち、何世紀にもわたってもたらされた調和が醸し出される街を好むのだ。

政治家としての視点では、ヨーロッパはある深刻な問題に直面しているとムヒカは考えている。

指導者たちに対する信用が危機的な状況に陥っており、

ヨーロッパ大陸における自分の人気振りは政治家に対する

不信の高まりによって説明されると考えている。

旧世界にはもう何もサプライズが残っていない。

だからこそ彼らはムヒカという異端児に魅了されているのかもしれない。

ヨーロッパでは前衛的な政治という考えは少なくなってきており、

一部の国ではいまだに征服の考え方が支配的である。


ヨーロッパは現在の世界を理解する上で、深刻な問題を抱えている。

つまり、左派政権がほとんど存在しないという問題だ。

ひとつだけ左派政権があるが、すべて混ぜこぜになってしまった。

次に、社会主義のスカンジナビア諸国があるが、時々右に振れることもある。

しかし、彼らが作り上げたシステムは素晴らしい。

彼らが実現した生活水準と富の分配には目を見張るものがある。

やればできるということが示された良い例だと思う。


「10 預言者」から抜粋


ムヒカは、人類は、頻繁に携帯電話を買い替えたり、

1年も持たない電気製品に頼ったりする必要はないことにそのうち気づくだろうという。

「ランプを100年使い続けられるのならば、どんなものでも

もっと耐久性を持たせることができるはずだ。

いや、何も洞窟時代に戻るべきだと言っているのではない。

企業の利益にも意味を持たせることが大切なんだ」

知識、研究内容、情報などが、以前より多くの人に

利用されるようになったということは事実だ。

しかし、方向性がなく、これらの情報に

「ポジティブな意味を与えられる人」がいないことが問題なのだ。


今人類は、いまだ存在して居らず、どの国も準備することが

できないグローバル・ガバナンスを必要としている。

太平洋で起こっている海抜の上昇やプラスチック投棄の問題は、

どの政府も解決できていない。

社会と政治の乖離は重大だ。

このままでは何も良いことにつながらない。

そこで、アウトサイダーが"救世者"として登場するわけだ。

政治家と言っても色々で、くずみたいな奴らもいるが、

彼らは結局自分たちの所属政党のためにしか行動しない。

歴史上も、このようにしてあまり評判の良くない指導者たちが現れた。

右派の政治家はいつも道徳に訴えるようなスピーチをして、民衆の前に現れる。

そして政権を握り、全てをメチャクチャにするのさ。


頻繁に携帯電話を買い変えるって面白い比喩だな。自分は、もう、何年も変えてない。


iPhone SE 1st Editionだから、6年も変えてないよ!ってどうでもいいな、これ。


前後してしまうけれど、「序文」の艸場さんの編集した本


「世界でいちばん貧しい大統領からきみへ」から抜粋。


艸場さんがウルグアイに訪問して語りかけられた内容だそう。


歴史における偶然についても話そう。

私が生きているのも偶然だからね。

 

偶然なんか存在しないというのは真っ赤な嘘だ。

世の中には想像を超えたできごと

つまり偶然が存在している。

因果関係 ーー こうだったからこうなった、ということだ ーー

そして偶然。

この二つは確実に存在する。

 

歴史を学べば、それが良くわかる。

 

ヨーロッパ中世の学問に、スコラ哲学がある。

これは古代ギリシャの「スコレー」が起源で

これが「ひま」という意味なんだ。

古代ギリシャでは、スコレーは議論する時間のことだった。

 

ギリシャ時代の人々は大きな広場に集まって、

話し合い、議論した。

こうした社会に、スコレーつまり「ひま」が重要だったんだ。

スコレーがあったから哲学が生まれた。


哲学は大学で学ぶだけじゃない。

人生を通して抱き続ける問いなんだ。

私たちはみな哲学者なんだよ。

哲学は、製品として売ることができないから

市場では相手にされないが

哲学を持たなければ、世の中にあふれているものごとから

本物を見つけることはできないだろう。

 

「ひま」は無駄じゃない。

人が話し合う時間は大切なんだ。

時間がかかるものではあるけれど、

それが「生きている時間」なんだよ。

 

君とこうしてじかに向き合って

同じ時間を共にすることがすばらしいんだ。

 

告白するとね、

わたしは人間は限りなく良い社会を築けると信じているんだ。

そのためには古代に目を向けることだ。

歴史は化石ではなく、未来のための果実なんだ。

古代の社会から寛容さを学ぶことだ。

寛容さは、命を守るために大事なことだよ


闘う前からあきらめている連中を見ているとイライラするんだ。

勝ったことをひけらかす必要はないが、

勝つと信じて前に進み、人生に意味を与えるべきなんだ。

 

人生みたいに複雑な現象に、

どうやったら勝ったと言えるんだろうね?

でも、人生はすばらしい冒険なんだ。

たとえ20回挫折しても、やり直す価値があるんだよ。

わたしがそうだったんだから。

 

人生が意味あるものにするかどうかは

きみ次第だ。

たとえ困難でも、もう少しと挑むことだ。

敗者とは、肩を落として自らを放棄してしまった人々のことだ。

人生を投げてしまうのは

店で命を売るようなものなんだよ。

どうでもよい買い物をして人生を使っているうちに、

一文なしになったきみは

この世でいったい何をしたかったのだろう?

 

自由を奪われてはならないよ。

若さを失わないで、

人生をたっぷり味わいなさい。

もっと生きることをめがけて。


哲学者のようだと思ったのは、それもそのはず


ムヒカ氏の原典が古代ギリシャだったのか。


マルクス・アウレリーウスとかセネカのようだ。


余談だけれど、ジョン・レノン、


チャップリン、ガンジーも連想してしまった。


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