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イヤシノウタ:吉本ばなな著(2018年)他 [新旧の価値観(仕事以上の仕事)]


イヤシノウタ (新潮文庫)

イヤシノウタ (新潮文庫)

  • 作者: ばなな, 吉本
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2018/10/27
  • メディア: 文庫

吉本隆明とばなな親子の対談


「書くことと生きることは同じじゃないか」


から抜粋。


太宰治が好きだと仰る隆明さん、


漱石・鴎外も立派だ。


翻って自分はどうなのか


「平凡な物書きで終わりそうだな」


と言うとばななさん


「自己評価低っ!」と。


それに対して諌めるような感じなのか、


隆明さん仰るに


「そんな大した作家になることが大切なことなのか?という気持ちも一方にあって」


として以下続けられます。


「人生で最良の喜びとは」から抜粋


■吉本

平凡でもとにかく夫婦仲はいいし、まだ小さいけれど、いい息子がいて、今が幸せでしょうがないんだという家庭がだったら、もうずっとそれで通しちゃえって。

 

■ばなな

それは私に望むことですか(笑)

 

■吉本

僕だったら、そう考えると思うな。

傍から見ても、そばへ寄って話を聞いても、

「このうちは本当にいいな。いい夫婦だな。子供もいいな」という家庭を目的として、それで一生終わりそうにできたら、それはもう立派なことであって、文句なしですよ。

もし、あなたがそうだったら、「それ、悪くないからいいですよ」って、僕なら言いますね。

それ以上のことはないんです。

どんなに人が褒めようが貶そうが、そんなことはどうでもいいわけで。

漱石・鴎外は、確かに人並み以上に偉い人です。

でも、それが唯一の基準かと言ったら、全然そうじゃなくて、俺のうちのことなんか、近所の人や肉親以外は何もいってくれないけど、でも、俺のうちは一番いいんだよ、自慢はしないけれど、自慢しろって言えばいつでもできるんだよ、って言えるような家庭を持っていたら、それはもう天下一品なんですよ。

「うちは夫も子供も申し分なく、並びなきいい家庭をつくりました。近くにお越しの際は、いつでも立ち寄ってくださいよ」と言えるような人生にできたら、もう他には何も要らないと言うくらい、立派なことなんです。

それがいかに大切で、素晴らしいことかと言うのは、僕くらいの歳をとれば、わかりますよ。生きるって、僕はまだわかんないけれど、一生を生きると言うのは、結局、そういうこと以外に何もないんだと思います。

それだけは間違いないことだから。

(2010年6月4日収録)


こういうところが、


吉本隆明たらしめているような


気がするなあ。


少なくとも自分はすごく好きなところだ。


この対談はこの書籍の最後、


目玉になっててここでは最初に


紹介してしまったけど、他いくつかの短い随筆があり、


一つだけ特別光って見えたのを


全文引かせていただきますと。


「品」から抜粋


友だちと、共有の知人であるとある会社の社長さんの話をしていた。

「あの人は「うちの商品をたくさん送るよ、ここに住所書いて」って俺に住所を書かせて、未だに何も送られてこない」

「ええ、そんな!悲しいね」

私は言った。

友だちはほんとうにふつうに、さっと、表情ひとつ変えずに、こう言った。

「いや、きっとそのときはほんとうに送る気持ちだったんだろう」

すっくと立ったその姿がまぶしく見えた。

その後に続く言葉が私には聞こえてくるように思えた。

だから、もらったのといっしょなんだよ。

そういう意味だった。

私は、こういうことこそがほんとうに上品ということなんだなあと感じた

そして友だちのことを誇らしく思った。

もしかしたら全部がとてつもなく下品になりそうな要素がその場に全部揃っていたのに(悪口やうわさ話や卑しさや欲しがりや)、すっとまるできれいなふきんでテーブルを拭くときみたいに反射的にきれいなものにしてしまったからだ。


こういうことって、自分もたまに


遭遇するけど、言葉にできない。


さすが小説家です。


それと最後に別の書籍、吉本さんが


まだ歩ける頃だから


かなり昔、初の対談集として上梓のものから。


吉本家のある日の一コマが知れて、ほのぼのした。


この本のコンセプトはそういう本では


なかったけど上との流れで、つい。


すみません。


  吉本隆明 X 吉本ばなな:共著(1997年)


 「ばなな幼少時の吉本家の団欒」から抜粋


(インタビュアー)ばななさんがさくらももこさんとの対談で盛んに仰っていたんですけど、お母様はサンタクロースがいるんだということを執拗にばななさんにーー。

 

■ばなな

ああ、なんか、騙すんですよね。騙されました。

 

■吉本

それはねえ、相当頭を使ってねえ。

 

■ばなな

そう、頭を絞るのすごく楽しそうなの

 

■吉本

絶対にわからないっていうか。絶対に寝てるとかね、絶対に気が付くはずがないっていうところまで我慢してっていうかね。夜が更けても我慢して(笑)

 

■ばなな

こんな根気を持ってこんなことやるかっていうような。

 

■吉本

そうそうそう。冗談でっていうユーモアでっていうか。

いい意味で騙すっていうことについてエネルギーは相当に良く使って最後まで。

 

■ばなな

あの情熱を何か他のことに傾けたら。

だってタンスに二時間隠れているとか平気でやるんですよ、驚かすためには。

 

■吉本

そうそう、そういうこともあるしさ、今だってこれの上の子供と一緒になってさ。

 

■ばなな

ああ、知ってる人をね4月1日に騙すんです。

 

■吉本

それもすごいエネルギーの騙し方で。例えば卵をたくさん買ってくるでしょ?

そんな中のある部分だけゆで卵にしておいてとかね。

もうものすごい、冗談もここまでやるのかっていうようなね。

 

■ばなな

なんか救急車クラスのものまでありましたよね。

 

■吉本

そうそうそう。

 

■ばなな

なんかよく覚えてないんだけど、誰か死んだとか言ったり、あと、なんか嘘の電話番号を教えてかけさせたりとか。あれ相手によっては本気で怒って絶交しますよね。


こういうのを「幸せ」と呼び合える


人たちと共同生活できたら、


それが「本当の幸せ」なのかも知れない。


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