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世間とズレちゃうのはしょうがない:養老孟司・伊集院光共著(2020年) [新旧の価値観(仕事以上の仕事)]


世間とズレちゃうのはしょうがない

世間とズレちゃうのはしょうがない

  • 出版社/メーカー: PHP研究所
  • 発売日: 2020/10/14
  • メディア: Kindle版

「「幽霊は現実だ」といえる場合がある」から抜粋


■養老

幽霊っているんだよね。だっていなきゃ言葉にならないでしょ。

頭の中にいるんですよ。それは間違いない。だから世界中にいますよ。

「外にいる」とか言いだすから変なことになるわけです。

頭の中には間違いなくいるという話。

だから「幽霊を見たから」と大急ぎで逃げて、転んで足の骨を折ったりするわけです。

そういう時、「幽霊は現実だ」と言えるでしょ。

 

■伊集院

ふむふむ。

 

■養老

「幽霊はいます」でいいじゃん。

幽霊の絵だってたくさんあるよ。

あと、幽霊のことを考えるにしても、戦争中と平和な時ではまた違うものね。

人ってそういうものでしょう?

たとえばフィリピンで終戦を迎えて帰ってきた人が

「飢えた兵隊が戦友を食ったことがありました」と証言する。

そうすると、人間はそういうことをするものだと性悪説をとりがちですよね。

でもその時、「それは違うんじゃないかな」と思いました。

人間は性悪でも性善でもなくて、状況次第だろう、と思ったんです。

状況次第で自分だって「食わなきゃ死んじゃう」となれば食うかもしれない。

性悪とか性善とかは、その状況に置かれたことがない人が言うんですよ。

人間の性は本来善だとか悪だとかいう考え方が変なんだと思いますよ。


「性善」「性悪」って簡単に言えないよなという話ですな。


「多様性」ってのも簡単には括れないって養老先生、この後の話で仰っていて興味深かった。


ちょっとこの書籍の「ズレる」コンセプトからズレますが、幽霊話で思い出した。


ヤマザキマリさんが、日本での恐怖体験をイタリアでしたら全く受けず大笑いされたという。


国が異なると、いないものとして扱われるのであれば、それはもしかしたら幻想だったのか。


個人的に、ミステリーは好きだが(UFO、UMA系)、幽霊は興味ないんだよなあ、なぜか。


どちらかというと、いるような気もするけれど。


「AIに仕事を取られるとよく言いますが…」から抜粋


■伊集院

新しい技術が登場するたびに、世の中がザワザワと騒ぎ出しますよね。

世間では「AIに仕事を取られる」と言う不安が拡がっています。

そうなると相当困るぞ、と。

 

■養老

AIに仕事を取られると言うその根本は、世の中の情報ですよね。

みなさん、「これからAIに仕事を取られる」と思っているけど、そうじゃないんだよ。

もう取られているんです

それに気づいてないだけなんです。

25年くらい前に聞いた、かみさんの病院に対する文句が

「お医者さんが私の顔を見てくれない」。

それはそうですよ。

情報だけを扱っている人間が医者になったと言うことです。

 

■伊集院

なるほど

(中略)

 

■養老

5、6年前に、かみさんと行きつけの銀行に

行ったときのことなんだけど、ある手続きをするときに銀行の人から

「先生、本人確認の書類をお持ちですか?」と言うんです。

普通は運転免許証なんでしょうね。でも僕は運転免許を持ってないんだよ。

そしたら向こうは「健康保険証でもいいんですけど」と言うんです。

健康保険証なんて持ってこないよ。

病院じゃないんだから。

そうしたら向こうがなんて言ったか。

「困りましたねえ。分かっているんですけどねえ。」って。(笑)

そこで、「あれっ?」と思ったんです。

「本人確認の書類を持って来い」と言われたけど、

「そうすると、お前は誰だろう?”本人”って何だろう?」と思ったわけ。

 

■伊集院

本当だ!(笑)

 

■養老

それがしばらく疑問で、それから数年経ってだよ。

会社で働いている知人が「近頃の若者はね」と言い出した。

「同じ部屋で働いていているのに、メールで報告してきやがった」と怒っているわけ。

「あいつらは職場の仲間同士で、仕事の話をメールでやりとりしているらしい」と。

その瞬間に「なるほど」と気がついたんですよ。

要するに、彼らは「本人が嫌」なんだよね。

課長が同じ部屋で働いているんだけど、

課長の顔を見に行くと、二日酔いで機嫌が悪いとか、

上司に何か言われたらしいとか、余計な情報が入ってくるでしょ。

メールだと、そういうめんどくさいものが全部落ちるんですよ。

そのとき「会社員も医者や銀行員と同じだ」と思った。

つまり「われわれ人間は何か」というと、もはやノイズなんですよ。

不潔で猥雑で意味不明だから、そう言う存在はない方がいい。

だから最近は結婚もしないのかもしれませんね。

なにしろ現物はノイズの塊なんだから。

だから国も「マイナンバー、番号一つでいい」と言っています。

あなた本人はいらない。その裏を取るものもいらない。

公にいらないと言っているわけじゃないんだけど、

本人を番号一つにすると言うことは、そう言うことでしょ。

番号にできるんだよ。その方が断然効率がいいと言うことでしょ。

 

■伊集院

情報部分以外は、関わりたくないということですね。

 

■養老

そう。

だから同じ会社に勤めて同じ部屋にいても、「メール以外はいらない」というわけですよ。

電話も使わない。

電話だと「今日は機嫌が悪い」と分かるからね。


自分が会社員だった頃、自分の作った資料を


営業訪問の資料として使いたいから「ください」って


新入社員からメールが来て、声も掛けずにメールだけかよ、


って腹も立ったけど、時代も変わったのかな、と思いつつ添付送信後、


「そういう場合、一言声掛けなさいや」と指導した記憶あるけど。


今なら「あげてもいいけどなんか返せ」って言う、メールだけで来ても抵抗なく。


「返せ」っていうのは、客先の反応やら、資料を補強できるような何かってことで、


まったく、今更の不毛なことを考えて、意味ないなー、これ。


AIの養老先生の見解「コンピュータは文房具だからさ。文房具だけあって


人間がいない世の中って、そんなバカな話がありますか。意味がないって言うんだよ」と。


意味がないことの連続ですな。


「おわりに 養老孟司」から抜粋


(中略)

世間とは何か。社会の正統であろう。

正統とは、森本あんり(「異端の時代」岩波新書)によれば、「自己隠蔽性」を持つ。

自分はこうだと明示的に示さない。

それを言う必要がないのである。

しかも言ってしまうと「なんか違うよなあ」と言うことになる。

でも明確な説明なしに「それが世間の常識だろ」とも言うのである。

そういう鵺(ぬえ)みたいなものを相手にして、長年過ごしてきた。

だから伊集院さんを見ると「頑張ってね」と応援したくなる。

人生の半分は自然が相手で、残り半分は世間が相手である。

もっぱら世間しか相手にしない人は多い。

でもそれは不幸を生む。私はそう思っている。


ここには引かなかったけれど、他にも


興味深いことを二人で仰るには


「迷ったら一旦今の場所を離れ」「田舎暮らし」


「身体を使って疲れることが重要」と。


「田舎で暮らししたら、考える暇がなくなる」、というのは、


なんか「分かる」気がした。


余談だけど、伊集院さんはほぼ同世代、関東の人で、


同じような情報を浴びて中年になったという、


何となく感覚が近いのかこれまた、なんか「わかる」気がする。


「100分de名著」よく拝見させていただいております。


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